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[標本番号:No.544 採集日:2008/10/25 採集地:奈良県、川上村] [和名:ヒメコクサゴケ 学名:Isothecium subdiversiforme] | |||||||||||||
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10月25日に奈良県川上村の暗い沢沿い(alt 480m)で、岩を覆う蘚類を採集した(a)。植物体は朔をつけたものが多かった(b)。一次茎は岩をはい、二次茎は立ち上がって先の方で不規則に密に分枝し、乾燥しても葉は展開したままだ。鞭状に長く延びた枝も見られる。朔柄は暗赤色で長さ1cm、朔を傾けてつける(b, c)。葉はやや扁平気味についている。 茎葉は卵状披針形で、長さ1.8〜2.2mm、葉頂はやや尖り、葉縁には微細な歯がある。中肋は葉長の2/3に達し、先端は牙状にはならず自然に消える。枝葉は茎葉より細く小さめで、長さ0.8〜1.5mm、葉縁の微歯は茎葉よりさらに顕著。葉基部が茎に下延する様子はない。 茎葉でも枝葉でも葉身細胞の様子はほぼ同様、翼部はあまり発達しない(g)。葉身細胞は、中央部でうじ虫形〜長楕円形で、長さ30〜60μm、細胞壁はやや厚い(h)。葉先端部の葉身細胞はうじ虫形〜紡錘形(i)。翼部には方形や矩形の細胞がわずかに並ぶ(j)。葉の横断面で、中肋にはガイドセルもステライドもない(k, l)。 |
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茎の表皮には毛葉や偽毛葉はなく(m)、茎の横断面で弱い中心束があり、表皮細胞は厚壁の小さな細胞からなる(n)。 朔は柄に傾いてつき、非相称で、やや尖った蓋、僧帽状の帽をつける(o)。朔柄は長さ1cm前後で表面は平滑、横断面で中心束のようなものがあり、表皮部分は小さく厚壁の細胞からなる(q)。標本の朔はいずれも未成熟で、蓋を楽に外せるものはなかった。外朔歯と内朔歯はほぼ同じ長さ。外朔歯は下部に横条、上部に微細な乳頭がある。写真の朔歯が明赤褐色をしているのは、KOHでマウントしたことによる(r〜t)。朔の基部には気孔がある(u)。
茎は匍匐し胞子体を側生する短枝につける腋蘚類で、枝葉は茎葉より小さく、中肋は一本で葉の中部以上に達し、葉身細胞は平滑で細長く、翼部はあまり発達せず、茎の横断面で弱い中心束をもち、朔歯は内外ほぼ同長、などからアオギヌゴケ科の蘚類だと思う。
[修正と補足:2008.12.12 pm.4:00] |
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