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[標本番号:No.561   採集日:2008/05/18   採集地:東京都、奥多摩町]
[和名:フトスズゴケ   学名:Forsstroemia neckeroides]
 
2008年12月18日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 東京奥多摩で採取した残置標本のうちの二つ目を観察してみた。林道脇の日当たりのよい石垣に着いていた(a)。一次茎は這い、二次茎が斜めに起き、樹状に枝を伸ばし、乾燥した枝先は上側に巻きあがっていた。二次茎の長さは5〜9cm。乾燥すると葉は茎に密着気味になるが縮むことはなく、湿るとやや展開する(b〜e)。一次茎には小さな葉がつくが、いずれも崩れていたので観察は放棄した。二次茎や枝には覆瓦状に葉が密集してつく。
 二次茎の葉と枝葉とは、形はほぼ同じで大きさだけが異なる。茎葉は長さ2.5〜3mm、枝葉は1.2〜2mm、卵状〜卵状披針形で、葉頂は尖り、葉身は深く凹み、縦皺があり、基部で反曲する。葉縁はほぼ全縁だが、上部には微歯があり、中肋が葉身の2/3に達する(f, g)。
 葉身細胞は、いも虫形〜長楕円形で厚膜、平滑、長さ25〜45μm(h)、葉先付近ではひし形で、長さ10〜20μm(i)。翼部の葉身細胞は長さ10μm前後の方形(j)。葉の横断面をみると中肋にステライドはない(k, l)。二次茎の横断面(m)にも枝の横断面(n)にも、中心束はなく、表皮細胞は厚膜で小さな細胞からなる。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 朔は見つからなかったが、苞葉に包まれた造精器ないし造卵器が、葉に隠れた状態でみえた(e, o)。手前の葉を除くと苞葉が朔を包んでいるかのような姿を現した(p)。この部分だけを取り出して、手前側の苞葉を取り除いてみた(q)。どうやら造精器のようだ(r)。この個体についていた同じ形のものをみると、いずれも造精器ばかりだった。標本の他の個体で苞葉に包まれたものを調べてみると、それらもみな造精器だけで、造卵器をつけた個体はなかった。

 観察結果はイトヒバゴケ科 Cryphaeaceae を示唆している。保育社図鑑の検索表に当たってみた。同図鑑ではツルゴケ科という和名を用いている。中肋が葉頂近くに達することなく、葉身細胞背側に小乳頭もないから、スズゴケ属 Forsstroemia に落ちる。ついで属から種への検索表をたどると、スズゴケ F. trichomitria かフトスズゴケ F. neckeroides のいずれかとなる。
 朔の観察ができないので正確にはわからないが、解説を読むとフトスズゴケに分があるように思える。スズゴケは雌雄同苞同株雌雄異苞同株だが、フトスズゴケは雌雄異株だとある。また、二次茎はフトスズゴケの方が長く、フトスズゴケの朔柄は短く、朔が苞葉に隠れるとされる。
 ひとつの苞葉のなか個体に造精器と造卵器の両者を見出せれば、スズゴケということになるが、そういったものはなかった。もっとも、精子と卵子を作る時期が異なれば、造精器と造卵器がひとつの苞葉のなか個体にみられないから根拠にはならないが・・・。平凡社図鑑からもこれ以上の情報は得られない。ここではフトスズゴケとして扱っておこう。

[修正と補足:2008.12.18 pm3:00]
 非常に初歩的なミスを犯していた。「スズゴケは雌雄同苞同株」と思い込んで、図鑑をきちんと読まず、見当違いの探索をしていた。平凡社図鑑には明瞭に「雌雄同株(異苞)」と記されている。ここで抹消線を加えて、上記青字のように訂正した。ご指摘ありがとうございます。
 後日、朔をつけた個体を採取する機会があろう。その時点で、本標本と比較することによって、上記仮同定が妥当であったのかどうか判定できることだろう。