HOME | 観察覚書:INDEX | back |
[標本番号:No.583 採集日:2009/02/07 採集地:静岡県、河津町] [和名:エダウロコゴケモドキ 学名:Fauriella tenuis] | |||||||||||||
|
|||||||||||||
伊豆半島南部で浄蓮の滝へ降りる道脇の岩に、淡緑色のコケが薄い層をなしてついていた(alt 300m)。遠目にはコケが着いたというより、岩壁の一部が緑色に染まっているという印象だ(a)。近寄って見ると、細い糸くずのような蘚類が薄く広がっていた(b)。 茎は、葉を含めて幅0.3〜0.5mm、長さ1〜3cm、不規則に分枝し、葉をやや疎につけ、茎葉も枝葉も同じような形と大きさで、乾燥時も湿時も姿はあまり変わらない(c〜f)。茎があまりにも細いので、幅について正確を期すため定規(c)やノギス(f)を脇に添えて撮影した。 葉は卵型〜類円形で深く凹み、長さ0.2〜0.3mm、葉先は急に細くなって尖り、葉表面がざらついてみえる(g, h)。葉縁には非常に小さな目立たない歯があり、中肋は全くないか、消え入りそうに短いものが2本ある(h〜j)。葉身細胞は長菱形で、長さ12〜25μm、やや厚壁で、背面中央には大きな乳頭がある(i〜l)。腹面の葉身細胞表面は平滑(j)。 |
|||||||||||||
|
|
||||||||||||
枝に葉をつけた状態のまま顕微鏡でみると、葉の凹みと背面の乳頭が顕著にわかる(m)。念のために葉を縦に切ってみた(n)。葉の横断面を切り出そうと試みたが、全体を切り出すことには失敗し、部分的な横断面しか得られなかった(n)。茎や枝に中心束はない(p) この糸くずのような細いコケは、ヒゲゴケ科 Theliaceae のエダウロコゴケモドキ属 Fauriella のものだろう。保育社図鑑ではヒゲゴケ属という和名をあてているが、いずれの図鑑にも「日本産1種」とされる。種の解説を読むと、「茎葉は密で」、「木の基部や腐木上に薄いマットをつくる」という部分は異なるが、ほかの多くの形質状態は、観察結果とほぼ一致する。
このコケの葉の横断面切り出しは、どうやってもうまくいかなかったが、その主因は資料押さえの失敗にある。ふだんは針先をつぶしやや幅広にしたものをジグにし、これで資料を押さえて実体鏡の下で切り出したり、ときに自作の簡易ミクロトームを使って薄片を作っている。 |
|||||||||||||