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[標本番号:No.585 採集日:2009/02/07 採集地:静岡県、河津町] [和名:ミヤマギボウシゴケモドキ 学名:Anomodon abbreviatus] | |||||||||||||||||||
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伊豆半島の旧天城トンネル近くの沢(alt 640m)で急斜面に立つ細い広葉樹の樹幹に着いたコケを観察した(a)。すっかり乾燥して、葉が茎に密着し紐状に見えた(b, c)。現地でルーペを使って葉を見たが、枝振りなども考慮すると、シノブゴケ科 Thuidiaceae のキヌイトゴケ属 Anomodon の蘚類だろうと思った。標本には朔をつけた個体が含まれていた。二次茎は長さ1〜4cm、わずかに分枝し、乾燥時に枝に密着していた葉は、湿ると広く展開し彙状となった(d〜f)。
枝葉は卵状の広い基部から、急に細くなって舌状に長く伸び、長さ2.5〜4mm、葉頂は鈍頭からやや尖り、葉縁は全縁だが、葉身細胞表面の大きな牙のため、微歯があるかのようにみえる。一本の強い中肋が葉頂近くに達する(h, i)。葉基部は半曲し両端がやや下延する(g)。 葉身細胞は、葉の大半で類円形〜楕円形で、長さ12〜20μm、細胞表面の背腹には大きな牙状の突起がある(j, k)。葉先付近の葉身細胞も同様。葉基部の葉身細胞は、長矩形〜ウジ虫形で、長さ25〜35μm、壁は厚く、表面に乳頭はない(l)。葉の横断面を見ると背腹の牙状乳頭が顕著にわかる。横断面で中肋にステライドはない(m〜o)。 苞葉は枝葉より細長くて小さいく、舌状の部分が長い(q)。葉身細胞の様子は、枝葉と同じく類円形で背腹の両面に牙状の大きな乳頭を持つ(r)。苞葉基部では翼部がよく発達し、矩形の大形細胞が並び(t)、翼部の肩の縁には単細胞の歯が突出している(s)。 |
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胞子体は枝の途中の葉腋につき(u)、朔は卵型で、直立し相称、長さ1.5〜1.8mm、小さな帽、長い嘴をもった蓋、2〜2.5mm長の柄からなる(v)。外朔歯は白系色で32枚あり(w)、内朔歯は明瞭にはわからなかった(x)。外朔歯の上半表面は小さなイボに覆われ(y)、下半では横条があり(z)、口環がよく発達している(aa)。胞子は球形で、径22〜30μm(ab)。朔柄表面は平滑(ac)、朔の表皮細胞は大きな不定多角形となっている(ad)。朔に気孔を探したが見つからなかった。 枝振り、ズングリした舌状の葉、茎や枝に毛葉がなく、中肋が葉頂近くに達する、内朔歯の発達が悪い、などからキヌイトゴケ属の蘚類に間違いない。種への検索表をたどると、ミヤマギボウシゴケモドキ A. abbreviatus に落ちる。種の解説を読むと、観察結果とよく合致する。 ふだんは観察、撮影してもそのうちのごく一部の画像だけしかアップしないが、今日は少し趣向を変えて、多くの画像を列挙することにした。枚数があまりにも多くなるので、苞葉を並べた姿、帽・蓋・朔の列挙、朔の横断面、朔柄の横断面、朔の内側の層、胞子を包む膜などの画像は掲げなかった。また、ミズゴケ類の観察の時にならって、図のキャプションを別途記した。 |
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