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[標本番号:No.595   採集日:2009/03/08   採集地:栃木県、栃木市]
[和名:シナチジレゴケ   学名:Ptycomitrium gardneri]
 
2009年3月10日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a, b) 石垣上の植物体、(c, d) 乾燥時と湿時、(e) 葉、(f) 乾燥した葉、(g) 葉、(h) 葉の先端部、(i) 葉身細胞、(j) 基部の葉身細胞、(k) 中肋の横断面、(l) 茎の横断面

 今週の日曜日(3/8)に、信仰の山として知られる栃木県の石灰岩峰 御岳山に登った。目的はウロコケシボウズタケ Tulostoma squamosum という石灰岩生のきのこだったが、またも空振りだった。かわりに神社の石垣や石灰岩上についたコケを何種類か採集した。今日はそのうちの一つ、神社の石垣(標高200m)についた蘚類を観察した(a, b)。
 皿を伏せたような丸い群落をなしていた。茎は直立し、長さ2〜5cm、わずかに分枝し、乾燥すると葉が強く内曲する(c〜f)。葉は長卵形〜楕円形の基部からやや急に狭くなって披針形に伸び、長さ3.5〜5.5mm、上半部の縁には鋸歯があり、中肋が葉頂に達する(e〜h)。
 葉身細胞は類円形〜丸みを帯びた方形で、長さ8〜12μm、厚壁で平滑(i)、翼部には薄膜で大形矩形の細胞が並ぶ(j)。葉の横断面で、中肋には中央に明瞭なガイドセルがあり、背腹両面にステライドが発達している(k)。茎の横断面で中心束がある(l)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(y)
(y)
(m) 胞子体、(n) 朔柄基部と雄花序を伴った枝、(o) 朔、(p) 朔:帽、蓋、(q) 朔歯、(s) 朔歯、(t) 朔歯基部、(u) 朔歯先端部、(v) 朔歯基部の横断面、(w) 気孔、(x) 胞子、(y) 朔の横断面

 胞子体は長さ9〜12mm(m)、苞葉を取り除くと、朔柄の基部に雄花序をつけた小枝がつく(n)。朔柄は黄色で、長さ7〜9mm、表面は平滑。朔は長卵形〜長楕円形で直立し相称で、長い嘴のある蓋をもち、縦しわのある深い帽をかぶる(o)。帽は朔の2/3ほどを覆う。
 帽と蓋を取り外すと、赤色の朔歯が現れた(p)。朔歯は一重で16枚、それぞれは披針形で基部近くまで深く二裂し、表面は微細な乳頭に覆われる(q〜u)。蓋と朔との間に、口環はみられない。蓋と一緒に、朔歯の基部を横断面で切り出してみた(v)。二裂した朔歯の内部は空洞で、表面に小さな乳頭がついている様子がわかる(v)。
 朔の基部近くには気孔がある(w)。朔柄の横断面には中心束に似た構造が見られる。胞子は類球形で、径12〜16mm(x)。

 日当たりの良い岩上に生じ、葉は卵状披針形、朔は直立、中肋が葉先に達する、朔歯は一重で表面に乳頭がある、などからギボウシゴケ科 Grimmiaceae の蘚類だろう。平凡社図鑑で検索表をたどると、帽に縦ヒダがあり、胞子体基部の鞘に接して雄小枝があることから、チジレゴケ属 Ptycomitrium に落ちる。種への検索表をたどると、すんなりとシナチジレゴケ P. gardneri にたどり着く。種の解説をよむと、ほぼ観察結果と一致する。なお、保育社図鑑では、本種に対して、P. longisetum の学名をあてツクシヒダゴケという和名を用いている。