[標本番号:No.615 採集日:2009/03/16 採集地:愛知県、新城市] [和名:ハリミズゴケ 学名:Sphagnum cuspidatum]
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2009年4月5日(日) |
(a) |
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(c) |
(d) |
(e) |
(f) |
(g) |
(h) |
(i) |
(j) |
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(a, b) 水中の植物体、(c) 標本、(d) 植物体頭部、(e) 開出枝と下垂枝、(f) 茎葉と枝葉、(g) 茎の表皮細胞、(h) 茎の横断面、(i) 枝の表皮細胞、(j) 枝の横断面、(k) 茎についた葉、(l) 茎葉 |
愛知県新城市作手で、湿原に続く杉林脇の広い側溝に水没状態でミズゴケが出ていた(alt 560m)。茎は長さ10〜15cm、淡緑色〜明緑色(c)、頭部はほっそりとしていて(d)、開出枝は下垂枝よりも長いが太さはあまり変わらない(e)。
茎の表皮細胞に孔や螺旋状肥厚はなく(g)、横断面で表皮細胞は2層で、木質部との境界はやや不明瞭だが、明らかに違いがある(h)。枝の表皮細胞には、首の長いレトルト細胞はなく(i)、横断面で他より大きな細胞が2〜3ある(j)。
茎葉は二等辺三角形で、長さ1.3〜1.8mm、葉先は尖り数個の歯がある(f, k〜n)。葉縁には舷があり、上部では狭く、基部では広がっている(m)。茎葉の透明細胞にはまばらに偽孔があり、横に多数の糸がみられる(o)。
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(m) |
(n) |
(o) |
(p) |
(q) |
(r) |
(s) |
(t) |
(u) |
(v) |
(w) |
(x) |
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(m) 茎葉、(n) 茎葉先端、(o) 茎葉腹面中央、(p) 茎葉の舷、(q) 開出枝の葉、(r) 開出枝の葉背面上部、(s) 開出枝の葉背面中央、(t) 開出枝の葉腹面上部、(u) 開出枝の葉腹面中央、(v) 下垂枝の葉、(w) 下垂枝の葉背面中央、(x) 下垂枝の葉腹面中央 |
開出枝の葉も下垂枝の葉も形はほとんど変わらず、いずれも枝の基部で幅広になるが、多くは披針形で、長さ1.5〜1.7mm、先端は尖り数個の歯がある。透明細胞の背面にも腹面にもほとんど孔はなく、糸とわずかの偽孔がある(r〜x)。枝葉の横断面で、葉緑細胞は丸みを帯びた台形で、背側に広く腹側に狭く開いている(y〜ab)。
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(y, z) 開出枝の葉の横断面、(aa, ab) 下垂枝の葉の横断面 |
茎や枝の表皮細胞に螺旋状の肥厚がないから、ミズゴケ節ではない。さらに、枝葉の横断面で、葉緑細胞が背側に広く開いているから、キレハミズゴケ節でもキダチミズゴケ節でもない。枝葉の透明細胞の背側に孔がすくないからユガミミズゴケ節でもない。さらに茎葉は小形で、舷は基部で広くなっているから、ウロコミズゴケ節でもない。葉緑細胞は背側に開くことからスギバミズゴケ節でもない。残るのはハリミズゴケ節だけとなる。
平凡社図鑑で、ハリミズゴケ節の検索表をたどると、茎葉の先端は狭くささくれ、尖り、枝の表皮細胞のレトルト細胞は首が短く、茎葉と枝葉とは明瞭に形が違い、枝葉先端部の透明細胞は背腹両面ともに孔がないから、すなおにハリミズゴケ S. cuspidatum に落ちる。滝田(1999)の検索表をたどっても、すんなりとハリミズゴケとなる。種の解説をよむと観察結果と一致する。
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