HOME | 観察覚書:INDEX | back |
[標本番号:No.619 採集日:2009/04/06 採集地:栃木県、鹿沼市] [和名:フナガタミズゴケ 学名:Sphagnum imbricatum] | |||||||||||||
|
|||||||||||||
前日光連山の標高1,300〜1,400m周辺には幾つもの湿原や小湿地がある。先日井戸湿原(a)から古峰ヶ原湿原周辺を散策した。これらの湿原では植物の採取は一切禁止されている。しかし、この周辺には他にも小湿地が随所にあり、そこで何種類かのミズゴケを採集した。 今日はそのうちのひとつ、いかにもミズゴケ節と思われるボテっとした印象のやや褐色を帯びたものを観察した(b)。茎は黒褐色〜緑褐色で、長さ8〜15cm、ミズゴケの仲間では枝や茎が比較的疎で、何となく弱々しい(c)。葉をつけた状態で開出枝はややボテっとし、下垂枝はほっそりとしている(d, e)。 茎の表皮細胞には螺旋状の肥厚があり、表皮に2〜4個の孔がある(g, h)。茎の横断面で表皮細胞は4〜5層で、木質部との結合は弱く、簡単にはがれてしまう(i)。枝の表皮には顕著なレトルト細胞はみられず、細胞表面には孔があり、螺旋状肥厚がある(j〜l)。 |
|||||||||||||
|
|
||||||||||||
茎葉は舌形で、長さ0.9〜1.2mm、葉先は総状に裂け、葉の縁に舷は無いか、一部にごくわずかに見られる(m, n)。茎葉の透明細胞には二裂したものがある(p)。枝葉は広卵形で、ボート状に深く凹み、先端は僧帽状。開出枝の葉は、長さ1.6〜2.2mm、下垂枝の葉は長さ0.8〜1.6mm。下垂枝の葉は、多くが開出枝の葉よりほっそりとしている。 枝葉の上部には小歯状の突起がある(r)。開出枝の葉の背面をみると、葉緑細胞の縁に短い櫛の歯状の突起がみられ、透明細胞の接合部には、縁の厚い双子孔や三子孔がある(s, t)。櫛の歯状突起は下垂枝の葉の背面ではあまり顕著ではない(w, x)。開出枝の葉腹面の葉身細胞には孔は少ないが、下垂枝の葉腹面には多くの孔がみられる(u, v, z, aa)。 |
|||||||||||||
|
|
||||||||||||
枝葉の横断面で、葉緑細胞はほぼ正三角形で、腹面側に多く開く。開出枝の葉では、透明細胞と葉緑細胞の縁には櫛の歯状の突起が見られる(ac〜ad)。下垂枝の葉の横断面でも随所に櫛の歯状の突起がある(ae)。なお、開出枝の葉であっても、横断面に櫛の歯状突起の全くみられない葉緑細胞もある。また、櫛の歯状突起は、下垂枝の葉では一般に少ない。 茎や枝の表皮細胞に螺旋状の肥厚があるから、ミズゴケ節 Sect. Sphagnum の種であることは間違いない。平凡社図鑑で、節から属への検索表をたどると、枝葉の透明細胞が横断面で正三角形であり、接する透明細胞との縁に櫛の歯状の突起があることから、フナガタミズゴケ S. imbricatum に落ちる。しかし、平凡社図鑑には、この種についての詳細な解説はない。滝田(1999)をみると、詳細な解説があり、観察結果とほぼ一致する。 |
|||||||||||||