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[標本番号:No.614 採集日:2009/03/16 採集地:愛知県、新城市] [和名:オオミズゴケ 学名:Sphagnum palustre] | |||||||||||||||||||||||||
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愛知県新城市作手町には県の天然記念物として保護される長ノ山湿原がある。先月その湿原を見学したあと、さらに上流の杉植林地で杉の葉から出る菌核菌を探索した。きのこ観察の合間に、ふと脇の小沢を見ると、いろいろな色のミズゴケが小さな群落を作っていた(a〜f)。 茎をルーペでみる程度では、茎や枝の表皮の螺旋状肥厚はよくわからなかったが、いずれも葉がボテっとした感じで、ミズゴケ節 Sect. Sphagnum の種だろうと思った。各色の個体(c〜f)を数本ずつ持ち帰った。帰宅後に観察した結果はすべてがオオミズゴケ S. palustre だった。 過去に何度も取り上げている種なので、オオミズゴケと分かった時点で、観察覚書には掲載せず標本箱にしまった。やはり、その前日三重県の休耕田跡で採集したミズゴケも、やはりオオミズゴケだったのでアップせずに標本箱にしまった。しかし、後日の参考のために、先日のウロコミズゴケ(No.620)と同じく、観察結果についての詳細な記述はせずに、撮影した検鏡写真だけをアップしておくことにした。検鏡図の掲載はそれだけでも意味があると思う。
図鑑やモノグラフには詳細な描画イメージによる検鏡図はあるが、検鏡写真を載せたものはほとんどない。描画イメージ(顕微鏡観察図)とは、微動ノブで合焦位置を上下しながら観察し、全体像を頭の中で組み立て、それを一枚の描画として表現したものだ。 |
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図鑑によれば、ミズゴケ節のものには、茎や枝の表面に「細い螺旋状肥厚」があるとされる。光学顕微鏡で見ると、対物4〜10倍といった低倍率でも、確かに螺旋状の線を見ることができる。しかし、対物20〜40倍に倍率を上げてじっと目をこらしてみても、この螺旋状の線が、果たして肥厚なのか溝なのかは、やはりよくわからない。微動ノブを操作しながら、合焦位置を少しずつずらすと、肥厚なのか溝なのかは分かるが、一枚の写真だけでそれを表現することはできない。そこで、油浸対物100倍で撮影してみた(j, k)。よく見ると、螺旋状の線は他の面からわずかに突出していることがわかる。対物100倍にもなると焦点深度が非常に浅くなるが、ごくごくわずかに微動ノブを動かすだけで、螺旋状の部分が溝なのか突起なのか、非常によくわかる。しかし、それらの一部を撮影すると、やはり溝なのか突起なのかわかりにくい。 また、久しぶりにサフラニンで染色しない状態で、開出枝上部の透明細胞を背面(ac)と腹面(ad)で撮影した。双子孔や三子孔、糸などの様子は、水で封入しただけでもよくわかる。しかし、孔の縁が厚いか薄いか、孔が偽孔なのか否か、といった細かな点になると、サフラニンで染色したものをじっくり観察しないとやはりよく分からない。 |
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