(m) 葉身細胞表面:ベルカ表面に合焦、(n) 同前:ベルカ基部に合焦、(o) 同前:細胞輪郭に合焦、(p) 斜め横断面:ベルカを主体にみたもの、(q) 油体、(r) 背片と腹片:サフラニン染色 |
葉身細胞の合焦位置を、ベルカの頂点付近から少しずつ下げて輪郭部までみた(m〜o)。葉身細胞表面のベルカをより明瞭にとらえるために、葉横断面をやや倒した状態で撮影した(p)。倍率をさらに上げると油体の構造が明瞭となる(q)。水封でも十分よくわかるが、サフラニンで染めて、背片と腹片の位置と大きさを再確認した(r)。なお、花被をつけた個体は無かった。
背片が腹片より小さく、明瞭で長いキールを持ち、腹葉はなく、葉が卵形で鎌形には曲がらないことから、ヒシャクゴケ属 Scapania に間違いない。平凡社図鑑で種への検索表をたどると、チャボヒシャクゴケ S. stephanii に落ちる。種の解説を読むと、葉先につくという無性芽はみあたらなかったが、その他の形質状態は観察結果とほぼ一致する。
検索表に「F. 葉のキールに明瞭な翼がある」か「F. 葉のキールに翼はない」という分岐がある。「キールに翼がない」という項をたどっていくと、観察結果と符合する種には行き当たらない。そこで、「キールに翼がある」という項を選択すると、チャボヒシャクゴケに行き着く。しかし「キールにある翼」という「翼」がどの部分を指すのか理解できない。背片の基部のうち、茎の反対側にせり出した縁のあたりを指すのだろうか。何点かの用語集やGlossaryなどを参照したが、「苔類のキールの翼」について具体的な説明をしているものは見あたらなかった。
[修正と補足:2009.12.25]
識者の方から、「キール(折れ目の稜)に沿って上下片がくっついてできる(癒合)部分」が「翼」であり「折れ目付近では2枚が完全に1枚になって(癒着)張り出している」感じであるとご教示いただいた。思えば今年の5月にも「翼」の件で適切なコメントをいただいていたが、すっかり忘れていた。そこで認識を新たにするため、改めて葉のキール部と翼部、そしてその近辺の横断面の画像をアップして再確認した(この文面は標本No.822に加えたものに同じ)。
再度にわたるていねいなご教示ありがとうございました。
|