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[標本番号:No.674   採集日:2009/07/11   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ヒナミズゴケ   学名:Sphagnum warnstorfii]
 
2009年8月4日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 採集標本、(c) 開出枝と下垂枝、(d) 茎と茎葉、(e) 茎の表皮、(f) 茎の横断面、(g) 枝の表皮、(h) 枝の横断面、(i, j) 茎葉、(k) 茎葉先端背面、(l) 茎葉横断面

 このところ菌類関係の行事が続き、一昨日夜になって、福島県土湯で行われていた冬草祭から戻った。またつかの間の時間が少しとれたので、7月11日に採取してそのままになっているミズゴケ類をひとつ、久しぶりに観察した。発生は標高1,400mの高層湿原。
 やや繊細な感じの蘚類で、茎の長さ9〜12cm、上部は黄緑色だが、下部はやや紅色を帯びる(b)。茎の表皮細胞は長方形で、螺旋状肥厚も孔もなく、横断面で表皮細胞は3〜4層で、木質部とは明瞭な境界をなしている(e, f)。枝の表面のレトルト細胞は3〜5列で、首は長い(g, h)。
 茎葉は、長さ1.0〜1.2mm、卵状〜舌状の二等辺三角形で、舷は葉頂付近から中央部までは3〜5列ほどだが、葉の下部では葉幅の2/3ほどに広がる(i, j)。茎葉背面の透明細胞には、膜壁があるが、大部分の茎葉では、糸も孔もない(k)。ごく少数だが、茎葉透明細胞の背面上部に糸のあるものが散見されたが、背面中央には糸はない(u, v)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m, n) 枝葉、(o) 枝葉背面上部、(p) 枝葉背面中央、(q) 枝葉腹面上部、(r) 枝葉腹面中央、(s, t) 枝葉の横断面、(u) 透明細胞に糸のある茎葉背面上部、(v) 同左の葉の背面中央、(w) 紅色を帯びた枝葉の背面上部、(x) 同左の背面中央

 枝葉は卵状披針形で、長さ1mm前後(m, n)。枝葉背面上部の透明細胞には、縁が肥厚しリング状となった孔が、接合面や三子孔となってみられる(o, w)。枝葉腹面側の透明細胞には、偽孔が見られ、ごくわずか貫通する孔もある(q, r)。枝葉の横断面で、葉緑細胞はほぼ二等辺三角形で、腹側に廣く開いている。

 茎や枝の表皮細胞に螺旋状肥厚がなく、枝葉の横断面で葉緑細胞が背腹両面に開き、腹側により廣く出ていて、茎葉の舷が下方で大きく広がっていることから、スギバミズゴケ節 Sect. Acutifokia のミズゴケであることは間違いない。
 観察結果に基づいて、平凡社図鑑のスギバミズゴケ節から種への検索表をたどると、ウスベニミズゴケ S capillifolium var. tenellum ないしヒナミズゴケ S. warnstorfii のいずれかとなるように思える。平凡社図鑑の解説と滝田(1999)などの記載を読むと、どの形質に重みを置くかでいずれの種にしてもおかしくない。ここでは、ヒナミズゴケとした方が比較的観察結果を素直に解釈できるのではないかと思う。