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[標本番号:No.698   採集日:2009/07/31   採集地:福島県、福島市]
[和名:ウスベニミズゴケ   学名:Sphagnum capillifolium var. tenellum]
 
2009年8月31日(月)
 
(a)
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(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
(h)
(i)
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(j)
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(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 採取した標本、(b) 標本の部分拡大、(c) 開出枝と下垂枝、(d) 茎と茎葉、(e) 茎の表皮、(f) 茎の横断面、(g) 枝の表皮、(h) 枝の横断面、(i) 茎葉、(j) 枝葉、(k) 茎葉、(l) 茎葉の先端

 7月31日に採集したミズゴケはようやく残り6サンプルとなった。ここ何日間かほぼ連日1〜2点のミズゴケを観察してきたが、結果はアオモリミズゴケ、ヒナミズゴケ、ワタミズゴケ、イボミズゴケなどだった。これらはすでに同日に福島市で採取したものを観察覚書に掲載してある。採取地はそれぞれ全く別だが、同じ福島市なのでこれらの覚書は掲載しなかった。
 今日も残り6サンプルのうちの一つを観察した。標高1680m付近の高層湿原の縁で採取したものだ。群れは小さくスギゴケ類などと混成していた。なお、この日撮影した蘚苔類の現地生態写真は操作ミスで失っている(「たわごと」→「苦労して撮影した写真が・・・」)。
 茎は6〜8cm、黄緑色〜茶褐色のやや繊細なミズゴケで、茎の表皮細胞は長方形で孔や螺旋状肥厚はない。茎の横断面で表皮細胞は3層で、木質部との境界は明瞭。枝の表面をみると、レトルト細胞は3〜4列に並び、首は短かい。
 茎葉は舌形で、長さ1.1〜1.3mm、円頭で先端はわずかに裂け、細い舷が上部まで達している。舷は下部で広がっている。茎葉の透明細胞には背腹ともに膜壁があり、背面上部の透明細胞には糸や偽孔がある。背面中央から下の細胞には糸や偽孔はない。
 
 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
(w)
(x)
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(m) 茎葉背面上部、(n) 茎葉背面中央、(o) 茎葉の横断面、(p) 枝葉、(q) 枝葉背面上部、(r) 枝葉背面中央、(s) 枝葉腹面上部、(t) 枝葉腹面中央、(u) 開出枝を横断面で切ったもの、(v, w, x) 枝葉の横断面

 枝葉は卵状披針形で、長さ1.2〜1.6mm、葉頂には少数の歯がある。枝葉背面の透明細胞には双子孔や三子孔が多数あり、貫通しているものとそうでないものがある。孔の縁はあまり厚みがない。茎葉腹面の透明細胞には一部の細胞に貫通しない孔がある。枝葉横断面で、葉緑細胞は正三角形〜樽形で、背腹両面に開き、腹面側により広く開いている。

 枝葉の横断面で葉緑細胞が腹面側により広く開き、透明細胞の背側には多数の子孔が接合面に沿って並ばず、茎葉の舷が下部で広がっていることから、スギバミズゴケ節 Sect. Acutifolia のミズゴケだろう。平凡社図鑑の検索表をたどると、ウスベニミズゴケ Sphagnum capillifolium var. tenellum とヒナミズゴケ S. warnstorfii が候補として残る。
 ヒナミズゴケであれば、枝葉背面上部の透明細胞に縁が厚くてリング状となった孔が、双子孔や三子孔を作っているとされるが、本標本の孔はいずれも縁が薄い。また、ヒナミズゴケのレトルト細胞の首はやや長いとされる。本標本は、色が薄紅色ではなく、茎葉や枝葉がやや大きいが、そのほかの形質状態は、ウスベニミズゴケを示唆している。