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[標本番号:No.706 採集日:2009/08/02 採集地:福島県、福島市] [和名:コサンカクミズゴケ 学名:Sphagnum recurvum var. tenue] | |||||||||||||
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8月2日、土湯峠近くの遊歩道脇の湿地にいろいろなコケが混成していた。帯状に草やコケが倒された部分があり、そこには熊の毛が多数落ちていた。目を上げると、20mほど先で熊がこちらをじっと見ていた。熊にはかまわず、撮影してそこに出ていたミズゴケを採集した(a)。 茎の下が千切れて短くなっていたが、採集した標本では茎は長さ4〜6cm(b)。茎の表皮細胞は矩形で孔はなく(e)、茎の横断面で表皮細胞は木質部と明瞭な境界を持っていない(f)。枝を取り去った茎には卵状二等辺三角形の葉がついている(d)。 茎葉は長さ1mm前後の三角形、先端は比較的尖っていて、葉頂近くまで舷がある(g, h)。舷は、葉の中央から基部で広がっている。茎葉背面先端付近の透明細胞には貫通する孔がある(i)。茎葉上半の透明細胞には糸がある(h, i, k)。 |
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枝の表面には2〜3列にレトルト細胞が並び、首は短い(m, n)。開出枝の葉は披針形で、長さ1.2〜1.4mm(o)、乾燥すると葉縁が波打つ。下垂枝の葉は開出枝の葉より小さく、長さ0.8〜1.0mm、卵状披針形(p)。下垂枝の葉背面の透明細胞には、上端に大きな貫通する孔がある(u, v)。 |
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枝葉の横断面で、葉緑細胞は三角形〜二等辺三角形で、底辺は背面側にあり、腹面にも達する。開出枝の葉や下垂枝の葉のいろいろな部分で横断面を切り出して確認した(y〜ab)。 乾燥すると枝葉の縁が波打ち、茎や枝の表皮細胞に螺旋状肥厚がなく、枝葉の横断面で葉緑細胞が背面側に広く開くことから、ハリミズゴケ節 Sect. Cuspidata のミズゴケには間違いない。平凡社図鑑で、節から種への検索表をたどると、アオモリミズゴケ Sphagnum recurvum ないしコサンカクミズゴケ S. recurvum var. tenue が候補に残る。茎葉の形をみるとアオモリミズゴケを思わせる。しかし、下垂枝の葉背面の透明細胞の上端の孔が極めて大きく顕著なことから、アオモリミズゴケとはせずにコサンカクミズゴケと判断した。ここではコサンカクミズゴケとしたが、いずれにせよ広義の S. recurvum には間違いなさそうだ。 |
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