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[標本番号:No.709   採集日:2009/08/20   採集地:埼玉県、秩父市]
[和名:アオギヌゴケ   学名:Brachythecium populeum]
 
2009年9月7日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(a, b) 植物体、(c) 採集標本、(d) 乾燥時、(e) 水で戻したもの、(f) 茎と枝

 先の日本蘚苔類学会第38回埼玉大会の3日目、8月20日に埼玉県秩父市の荒川上流で行われたフィールド観察会の折に採集したアオギヌゴケ科 Brachytheciaceae の蘚類をじっくりと観察した。現地では、たぶんアオギヌゴケ Brachythecium populeum だろう、と何人かで話をした。標高760m、沢沿いにある石垣の上側に薄いマットを作っていた(a, b)。
 一部に干からびたような形の朔をつけた個体もあった。茎ははい、不規則羽状に分枝し、葉を含めた幅1〜2mm(乾燥時)、長さ6〜10cm(c)。乾いても葉は縮れず茎に密着気味となり、湿ると葉をやや控えめに開出させる(d, e)。いずれにせよ、乾湿で植物体の形に大きな変化はない。
 
 
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(g, h) 茎葉、(i) 茎葉先端、(j) 茎葉上部、(k) 茎葉中央、(l) 茎葉の翼部、(m, n) 枝葉、(o) 枝葉先端、(p) 枝葉上部、(q) 枝葉中央、(r) 枝葉の翼部

 茎葉は長さ1.8〜2.2mm、卵状披針形で縦皺などはなく、葉頂は細く長く伸び、左右いずれかに湾曲し、中肋が葉頂近くに達する(g, h)。葉上半部の縁には目立たない小さな歯がある。葉身細胞は線形で、長さ30〜50μm、幅4〜6μm、薄膜で表面は平滑(k)。翼部は軽く分化し、幅広で短い矩形の細胞が並ぶ(l)。枝葉は長さ1.2〜1.6mm、披針形で鋭頭(m, n)、葉上半部の縁には明瞭な歯がある(p)。葉身細胞の様子は、茎葉のそれとほぼ同じ(o〜r)。
 
 
 
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(ae)
(ae)
(af)
(af)
(ag)
(ag)
(ah)
(ah)
(ai)
(ai)
(aj)
(aj)
(s) 枝葉横断面、(t) 茎の横断面、(u) 枝の横断面、(v) 朔柄の苞葉、(w) 苞葉、(x) 苞葉上半、(y) 朔、(z) 朔柄の上部、(aa) 気孔:暗くてわかりにくい、(ab, ac, ad) 朔歯、(ae) 外朔歯、(af) 外朔歯上半、(ag) 外朔歯基部、(ah) 内朔歯、(ai) 内朔歯上半、(aj) 内朔歯基部

 茎葉や枝葉の横断面で、中肋にはステライドはない(s)。茎や枝の横断面には弱い中心束がみられる(t, u)。朔の基部を包む雌苞葉は、長さ2〜2.5mm、長卵状披針形で先端が長く伸び、中肋が葉頂近くに達し、葉上半部は強く反り返る(v, w)。葉身細胞は茎葉や枝葉のそれと同じ。
 採集した標本にはわずかに朔もついていたが、いずれも蓋はなく、全体に老熟し朔歯に触れると簡単に崩れてしまう状態だった。朔は、楕円形から卵形で、長さ1.5〜2.0mm(y)。朔柄は長さ1.5〜1.8mm(c)、朔の表面は上半部から基部まで全体にほぼ平滑(z)。
 朔の基部近くに気孔があるが、暗くて明瞭な画像が得られなかった(aa)。朔歯は二重でそれぞれ16枚からなり、外朔歯と内朔歯の高さはほぼ同じ(ab, ae, ah)。外朔歯と内朔歯を分離して撮影しようと試みたが(ac, ad)、かなり老熟していたのか、すぐ断片に割れてしまった(ae, ah)。
 外朔歯の基部には横条がはしり、先端部は小さな乳頭に被われる(af, ag)。内朔歯の基礎膜は高く、歯突起の先は二裂し、間毛もある(ai, aj)。歯突起や間毛を含めて、内朔歯の表面は微細な乳頭に被われている。内朔歯の内壁には発芽した胞子が多数ついていた(ai, aj)。

 予測通りアオギヌゴケ科の蘚類に間違いなさそうだ。平凡社図鑑の検索表をたどっていくと、アオギヌゴケ属に落ちる。属から種への検索表は、最初に枝葉の中肋の様子で大きく二つに分かれる。本標本では、枝葉の中肋は葉頂近くに達し、茎葉には縦じわがないからすんなりとアオギヌゴケに落ちる。種の解説を読むと、「朔柄上半部にパピラがあり」という部分は異なるが、そのほかの形質状態はほぼ一致する。
 念のため Noguchi Part4(1991)を開いてみると、朔柄については "Setae 7-15mm long, reddish brown, ± scabrous above, smooth below, occationally smooth or scabrous throught." と記されている。ほぼ同様の内容が、種の記載の後の考察の部分にも記されている。朔柄上部表面のパピラは決め手にはならないのだろう。