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[標本番号:No.719 採集日:2009/08/25 採集地:新潟県、妙高市] [和名:コウライイチイゴケ 学名:Taxiphyllum alternans] | |||||||||||||
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新潟県の妙高高原(alt 1260m)で、沢沿いのカラ松林地表に群落をなしていた(a, b)。茎ははい、枝をわずかに分枝し、数少ない枝を平たく出す。枝は葉を含めて幅3〜5mm。葉はやや密にゆるくつき、葉先はやや下向きとなり、乾くと展開したまま縮れ、葉先が下向きになる。 枝葉は長さ3〜4mm、卵状披針形で、葉先は急に短く尖り、葉縁は全縁、葉基部はわずかに下延する。中肋は二叉し、葉長の1/3ほどに達する。横断面で中肋にステライドはない。葉身細胞は線形で、幅8〜15μm、長さ100〜140μm、薄壁で平滑。葉上部では長さ40〜80μm。翼部は明瞭には分化せず、短く幅広の矩形細胞が数列並び、先端の細胞は三角形。 |
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茎の横断面で、弱い中心束があり、表皮にはやや厚壁の小さな細胞が並ぶ。茎の分岐する部分や、新芽の出そうな部位を中心に毛葉を探してみた。密集する仮根のためわかりにくいが、三角形の毛葉らしきものがある(o, p)。仮根の表面は平滑(q)。雌器をつけた新芽のような小枝の周囲には葉状のものがある(r)。また、葉先に仮根はなく、無性芽は見られない。
肉眼的形態と二叉する中肋から、サナダゴケ科あるいはハイゴケ科の蘚類だと見当をつけた。平凡社図鑑に準拠して検索表をたどってみた。サナダゴケ科の蘚には偽毛葉はなく、日本産には2属あり、サナダゴケ属の蘚類は「茎ははい、中心束はなく、表皮細胞は大きく、外側の壁は薄い」とある。オオサナダゴケモドキ Plagiothecium euryphyllum の可能性も否定できないが、本標本では茎の横断面で表皮細胞は小さく厚壁で、偽毛葉と思われる組織が見られる。
[修正と補足:2009.09.24] |
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あらためて、標本の一部を取り出して腹面をみた(s)。腹面の葉基部近くの茎から仮根が束になって出る姿は、Noguchiによる植物体の描画と違和感はない(t, u)。また、この標本のうち緑色の葉をあらためて検鏡してみた。葉身細胞は既述のように幅8〜15μm、長さ100〜140μmに収まるものが大部分だった。茎の基部の葉では、中央下部の葉身細胞の幅が16〜18μmに及ぶものもあった(v)。この姿もまた、Noguchiの葉身細胞の描画と違和感はない。 また、発生環境であるが、採集地点をあらためて地図上と他の情報から再検討してみると、雨天のときには小川のように水が流れ、ふだんからジメジメした状態の凹地であることが判明した。すぐ近くには、すっかり干からびて白色となったホソバミズゴケの群生もあった。採集時は雨不足でカラカラ陽気のために、すっかり乾燥していたのだろう。 上記のような経緯で、キャラハゴケ属からコウライイチイゴケと修正することにした。ご指摘ありがとうございました。 |
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