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[標本番号:No.732   採集日:2009/09/21   採集地:福島県、南会津町]
[和名:ヤナギゴケ属   学名:Leptodictyum sp.]
 
2009年10月18日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
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(d)
(d)
(e)
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(f)
(f)
(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
(q)
(r)
(r)
(a) 植物体、(b, c) 乾燥標本、(d, e) 水で戻した標本、(f) 茎葉と枝葉、(g) 枝葉、(h) 枝葉の葉身細胞:先端付近、(i) 同前:中央部、(j) 同前:基部、(k) 茎の横断面、(l) 枝の横断面、(m, n) 偽毛葉、(o, p) 朔柄の基部、(q) 未成熟な朔、(r) 朔柄上部

 先月21日に福島県南会津町の山道で(alt 750m)、石壁に繊細な蘚類が広くて薄く柔らなマットを作っていた(a)。茎ははい、不規則羽状に多くの枝を出す。茎は長いもので2〜3cm、枝は葉を含めて、乾燥時は幅0.8〜1.0mm、湿時は幅1.0〜1.2mm。
 茎葉は長卵状披針形で、長さ1.0〜1.4mm、葉先は漸尖し、葉縁の全面に小さいが明瞭な歯がある。中肋が葉の中央部より先まで伸びる。枝葉は茎葉と同じような形で、長さ0.7〜0.8mm、葉縁の歯や中肋は、茎葉と同じ。
 葉身細胞は、茎葉と枝葉で変わりなく、長い紡錘形〜線形で、長さ45〜55μm、幅6〜8μm、薄膜で平滑。翼部は明瞭には分化せず、幅広で短い矩形の細胞が並ぶ。茎や枝の横断面には、非常に弱い中心束があり、表皮細胞は薄膜でやや大形の細胞からなる。
 茎に毛葉はなく、葉形の偽毛葉がある。いずれも未成熟だったが、朔は傾いてつき、非相称、僧帽型の帽、円錐形の蓋があり、朔柄の表面は上部から基部まで平滑。

 うまく切り出せなかったので画像は掲載しなかったが、葉の横断面で、中肋にはガイドセルもステライドもなく、葉身細胞の表面は平滑だった。また、雌苞葉は枝葉とほぼ同じ形で、こころもち細長い部分が長く、葉身細胞の様子なども枝葉と同じだった。
 一本の中肋が葉長の1/2を越え、葉の翼部はあまり発達せず、葉身細胞が長紡錘形〜線形、葉縁には細かい歯があり、朔が傾いて非相称、朔の蓋は円錐形で短く尖る、などからアオギヌゴケ属の蘚類だと思う。

 保育社図鑑で属から種への検索表をたどると、ヒロハフサゴケ Brachythecium salebrosum に落ちる。解説をよむと「ケヒツジゴケ B. wichurae に似るがやや小型」とあるが、詳細な解説はない。そこで、平凡社図鑑でケヒツジゴケの解説を読むと、枝葉は小さくて卵形、葉身細胞は線形で長さ85〜100μm、翼部は広くて明瞭な区画を作るとある。一方、ヒロハフサゴケについては、ケヒツジゴケより小形で、葉身細胞が長さ65〜85μm、翼細胞が小さくて方形〜矩形、とある。

 そこであらためて平凡社図鑑のアオギヌゴケ属から種への検索表をたどると、ケヒツジゴケとヒロハフサゴケの分岐とは別の分岐に落ちる。そこには、オカヒツジゴケ B. sapporense、ヤリヒツジゴケ B. hastile、ノグチヒツジゴケ B. noghuchii の3種が掲載される。
 この3種については検索表に若干の説明があるだけで、種ごとの解説はない。若干の説明は観察結果はどの種についてもやや異なり、どれもしっくりとこない。とりあえず、アオギヌゴケ属として記録しておくことにした。

[修正と補足:2009.10.21]
 先に識者の方から「ヤナギゴケ科ではないでしょうか。文献で確認できませんが,アオギヌゴケ属に「偽毛葉」は見られないように思います。」とのご指摘をいただいていた。
 確かに、当初はヤナギゴケ科 Amblystegiaceae の可能性も疑ったが、該当する属がヤナギゴケ属 Leptodictyum くらいしか考えられず、アオギヌゴケ科の蘚類ではあるまいかと考えていた。あらためていくつかの文献を読んでみると、やはりアオギヌゴケ科とするのは不適切なように思える。当面はヤナギゴケ属として扱っておくことにした。ご指摘ありがとうございます。