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[標本番号:No.738   採集日:2009/10/27   採集地:福島県、川内村]
[和名:ムクムクゴケ   学名:Trichocolea tomentella]
 
2009年10月28日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a, b) 植物体、(c) 標本(湿時)、(d) 標本背面、(e) 茎と枝:背面、(f) 腹面、(g) 腹面:葉先に合焦、(h) 葉、(i) 葉の掌部、(j) 、葉の先端部(k) 葉の油体、(l) 茎の横断面

 昨日福島県浜通りの山にコウボウフデを観察に出かけた。途中の小沢の岩盤やすぐ脇の灌木の根元に、苔類が柔らかいマットを作っていた(a, b)。
 茎は長さ4〜6cm、匍匐し、数回規則的に羽状に枝を分け、斜上する。ルーペでみると、茎や葉の表面を無数の毛が被っているようにみえる(e)。よく見ると左右に側葉があり、腹面にはやや小振りの腹葉があって、茎の基部と先端近くの腹面から白色の仮根が出る(g, m)。
 葉は深く4裂し、長さ0.6〜0.8mm、裂片はさらに細かく裂け、先端は長毛となる(h, n, o)。葉掌部分では、矩形の葉身細胞が柵状に並び、トリゴンはほとんどない(i)。葉身細胞には、各細胞に油体が6〜10個ふくまれる。油体は楕円形〜紡錘形あるいは米粒形で微粒の集合。多くの油体には非常に小さいが明瞭な眼点がみられる(k, q, r)。
 腹葉は側葉より少し小さめだが、裂け形や葉身細胞の様子は側葉と変わらない(p)。茎の表面は、葉の裂片先端と同じような毛葉に被われている。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(m) 植物体腹面、(n, o) 葉、(p) 腹葉、(q, r) 葉掌部の葉身細胞と油体

 ムクムクゴケ科 Trichocoleaceae ムクムクゴケ属 Trichocolea の苔類に間違いない。平凡社図鑑によれば、日本産1属1種と記されムクムクゴケ T. tomentella だけが記されている。さらに、図鑑には瓦状、倒瓦状のことに触れているが、いろいろな個体を何度みても、葉の毛葉が密生しているため、よくわからなかった。なお、保育社図鑑ではムクムクゴケ科にサワラゴケ属 Neotrichocolea とイヌムクムクゴケ属 Trichocoleopsis を含め、1科3属として扱う。平凡社図鑑では、この2属はサワラゴケ科 Lepidolaenaceae に置き、掲載ページもムクムクゴケ科とはかなり離れている。