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[標本番号:No.742   採集日:2009/11/02   採集地:三重県、尾鷲市]
[和名:ナガサキホウオウゴケ   学名:Fissidens geminiflorus]
 
2009年11月5日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 採取標本、(c) 乾燥時、(d) 湿時、(e, f) 葉、(g) 葉の基部、(h) 葉の上部、(i) 葉の中部、(j) 葉身細胞:背翼中央、(k) 同前:葉上部、(l) 葉中央部の中肋表皮

 先日三重県尾鷲市から山越えの国道425号を経て奈良県川上村まで走った。舗装こそされているが、狭くて曲折が多く、ガードレールはほとんどなく、路肩の崩壊箇所や落石多発地がかなりあった。ネットで行政区画を調べていると、国道425号は、岐阜県の国道418号や四国の国道439号と並ぶ「日本三大酷道路線」として名高い悪路だとあった。
 それはさておいて、沢の支流で水しぶきを浴びる箇所(alt 600m)でホウオウゴケ属の蘚類を採集した(a)。茎は3〜4cm、わずかに分枝し、葉を比較的疎につける(b)。乾燥すると葉が巻縮するが(c)、水に数分間水没させると復活した(d)。
 中上部の葉は長さ2.0〜3.5mm、濃緑色の長楕円状披針形で(e)、葉の背翼部基部が長く茎の上に下延する(f, g)。葉縁はほぼ全縁で、上部の縁は微細な歯がある(h, k)。葉の腹翼上部の縁は左右不均一(i)。中肋は強く葉先に達し、表面の細胞は細長い(l)。
 葉身細胞は長さ8〜12μm、多角形で薄膜、表面がやや凸状に膨らむ。葉の横断面を4箇所で切り出した(m〜q)。横断面で中肋には顕著なガイドセルとステライドがある。茎の横断面に中心束はなく、表皮細胞はやや厚壁で小さい(r)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(m) 葉の切り出し位置、(n〜q) 葉の横断面、(r) 茎の横断面

 平凡社図鑑でホウオウゴケ属 Fissidens の検索表をたどると、葉に中肋があり、原糸体は宿存性ではなく、葉身細胞は小さくて密であり、葉縁に舷はなく、葉縁の細胞は分化せず、葉縁が多細胞にならず、水際に生え、葉の基部が下延し、葉は乾くと巻縮し、葉の中部で中肋の表皮細胞は細長いことから、すなおにナガサキホウオウゴケ Fissidens geminiflorus に落ちる。
 図鑑の種の解説を読むと、観察結果とほぼ符合する。なお「茎に葉腋瘤がしばしば分化する」と記されているので、標本の茎を探したが見あたらなかった。また、「(中肋)表面の細胞は細長く,上端にしばしばパピラがある」とあるので、パピラを探したがはっきりわからなかった。
 
 
 
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(s, t) 葉1枚だけから切り出し、(u, v) 先端部の葉群をまとめて切り出し

 葉の横断面切り出しにあたって少し遊んだ。ふだんは、茎と葉を一緒に実体鏡の下に置いてそこにカミソリをあてている。したがってたいてい腹葉に包まれた状態の茎断面が得られる。そのまま撮影したり、気が向くと葉と茎の横断面を分けてから撮影してきた。
 今回は趣向を変えて、最初に葉を1枚スライドグラスに寝かせて、それにカミソリをあてた(s, t)。ついで、茎の先端付近のまとまった葉群を一緒に切り出した。葉が手をつなぐかのように、吊り橋状に重なり合って面白い(u, v)。