(a, b) 植物体、(c) 採取標本、(d) 開出枝と下垂枝、(e) 乾燥時、(f) 茎と茎葉、(g) 茎の表皮、(h) 茎の横断面、(i, j) 茎葉、(k) 茎葉上半、(l) 茎葉先端部 |
9月に群馬県上州武尊で採取したミズゴケの2番目の標本を観察した。標高1,500m付近の斜面で、常時水流が近くを流れ半ば湿地となっている場所に群生していた。枝葉の先を中心に赤みがかっていた。当初ホソバミズゴケが色づいているのだろうと思ったが、ルーペでみるとちょっと違っていたので、標本を持ち帰っていた。
採取した標本の茎は、高さ4〜8cmだったが、ほとんどの個体で下部が千切れていた。実際の高さはこれ以上だったと思われる。頭部や枝の先端付近が赤みを帯びている。茎の表皮細胞は矩形で上方に孔があり、横断面で表皮細胞は3層で木質部との境界は明瞭(g, h)。
茎葉は舌形で、長さ1.1〜1.2mm、葉先は丸くやや総状となっている(j, k)。透明細胞には先端部まで膜がある(k, l, n)。茎葉の縁の舷は上部では狭いが、下半部では葉幅の2/3ほどまで広がっている。茎葉下部の舷が広がっている部分を横断面で切ってみると、葉緑細胞と透明細胞がほぼ同じような大きさで並ぶ(o)。
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(m) 茎葉中央部、(n) 茎葉上部の横断面、(o) 茎葉の舷横断面、(p) 枝の表皮、(q) 枝の横断面、(r, s) 枝葉 [開出枝の葉]、(t) 枝葉背面上部、(u) 枝葉背面中央、(v) 枝葉腹面上部、(w) 枝葉腹面中央、(x) 枝葉の横断面 |
枝の表皮には3〜5列にレトルト細胞が並び、首が軽く突出する(p, q)。枝葉は卵状披針形で、長さ1.3〜1.5mm、葉先が軽く反り返るものがある。枝葉背面の透明細胞には、上部でも中央部でも縁の厚い貫通する孔が多数ある(t, u)。枝葉腹面上部の透明細胞には大きな貫通する孔が多数あるが(v)、腹面中央では偽孔しかみられない(w)。枝葉の横断面で、葉緑細胞は背腹両面に開いているが、腹面側により広く開いている(x)。
枝葉の透明細胞に多数の子孔はみられず、枝葉の横断面で葉緑細胞の底辺が腹面側にあるからスギバミズゴケ節 Sect. Acutifolia のミズゴケだろう。平凡社図鑑の節から種への検索表をたどると、茎葉は舌状で上半部の透明細胞には壁があって貫通せず、植物体が赤みを帯び、茎の表皮細胞に孔があり、枝葉背面中央部の細胞には孔があるなどから、ミヤマミズゴケ S. russowii に落ちる。平凡社図鑑には、ミヤマミズゴケについての解説はない。そこで滝田(1999)にあたってみると、観察結果とほぼ一致する。
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