[標本番号:No.769 採集日:2009/10/10 採集地:岩手県、八幡平市] [和名:サンカクミズゴケ 学名:Sphagnum recurvum var. brevifolium]
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2009年11月17日(火) |
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(a) 植物体、(b) 採取標本、(c) 開出枝と下垂枝、(d) 茎と茎葉、(e) 茎の表皮、(f) 茎の横断面、(g, h) 茎葉、(i) 茎葉先端部、(j) 茎葉中央部、(k) 枝の表皮、(l) 枝の横断面 |
八幡平アスピーテライン岩手県側で車道脇の水流の中に出ていたミズゴケを観察した(alt 1440m)。ひどく汚れていて水洗いしても汚れはほとんど除去できなかった(b)。
茎は高さ6〜9cmで、表皮細胞は矩形で孔はなく、横断面で表皮細胞と木質部との境界は不明瞭(e, f)。茎葉は長さ0.7〜0.9mm、三角形で、葉縁の舷は葉下部でも葉幅の1/2以下にしか広がらない(g, h)。茎葉の透明細胞には膜があるが、糸や偽孔などはみられない(i, j)。
枝の表皮にはレトルト細胞が2〜3列並ぶ。レトルト細胞の首は短い(k, l)。開出枝の葉は長卵状披針形〜披針形で、長さ1.2〜1.5mm、乾燥すると葉縁が波うつ(m, n)。開出枝の葉の透明細胞には背面にも腹面にも偽孔がある(o〜r)。
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(m, n) 開出枝、(o) 開出枝の葉:背面上部、(p) 同前:背面中央、(q) 同前:腹面上部、(r) 同前:腹面中央、(s, t) 枝葉の横断面、(u) 下垂枝の葉、(v) 同前:背面上部、(w) 同前:背面中央、(x) 同前:腹面中央 |
下垂枝の葉は卵状披針形〜広卵状披針形で、長さ1.0〜1.4mm(u)。下垂枝の葉の透明細胞背面には上端に貫通する孔をもったものが多い(v, w)。下垂枝の葉の透明細胞腹面には貫通する孔はみられない(x)。枝葉の横断面で、葉緑細胞は三角形〜台形で、背面側に開き腹面側にも達している(s)。葉の部分によっては、背腹両面に開き、背面側により広く開く(t)。
茎の表皮細胞に螺旋状肥厚はなく、枝葉の先端は狭く鋭頭で、茎葉は小さく舷が発達し、枝葉の透明細胞に多数の子孔はなく、枝葉横断面で葉緑細胞の底が背面側にあることなどから、ハリミズゴケ節 Sect. Cuspidata の蘚類だろう。
平凡社図鑑の種への検索表をたどると、サンカクミズゴケ S. recurvum var. brevifolium、アオモリミズゴケ S. recurvum、コサンカクミズゴケ S. recurvum var. tenue の3つが候補に残る。下垂枝の葉の透明細胞先端の孔は小さいことから、アオモリミズゴケとコサンカクミズゴケは排除できる。残るのはサンカクミズゴケとなる。平凡社図鑑の解説ではアオモリミズゴケとの違いがよくわからないので、滝田(1999)をみた。
おおむね観察結果と解説は一致するが、ひとつ気になる記述がある。それは「枝葉断面で葉緑細胞は正三角形〜二等辺三角形背面に広く開くが腹面には出ない」との記述だ。これを受けて10数枚の葉の横断面を切って確認してみた。その結果は、枝葉断面で葉緑細胞は背腹両面に開いているものが多い(s, t)。中には背面にのみ開き、腹面には全く開いていないものも見受けられたが、これは少数派だった。
下垂枝の葉の透明細胞上端の孔という形質を重視するか、枝葉横断面での葉緑細胞の開き方を重視するかで、コサンカクミズゴケにもなればサンカクミズゴケにもなる。これまでの経験から、葉の横断面における葉緑細胞の開き方には大きな偏倚があるように思う。一方、透明細胞上端の孔については比較的安定した形質と思われる。そこで、ここでもその経験則に則って、サンカクミズゴケと判断した。
サンカクミズゴケもコサンカクミズゴケも、アオモリミズゴケの変種とされる。いわば広義のアオモリミズゴケとして間違いない。後日どの変種とすべきかを再検討するにしても、標本が残っていること、また形質状態の詳細な画像から、誤りの訂正は楽にできると思う。
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