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[標本番号:No.810   採集日:2009/12/13   採集地:栃木県、栃木市]
[和名:スズゴケ   学名:Forsstroemia trichomitria]
 
2009年12月16日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b, d) 標本:乾燥時、(c, e) 標本:湿時、(f, g) 二次茎の葉、(h) 葉身細胞、(i) 葉の先端部、(j) 葉の翼部、(k) 葉の基部、(l) 葉の横断面

 栃木県栃木市の飛び地となっている沢沿いの寺社を歩いた(alt 230〜350m)。広葉樹の樹幹に何種類かの蘚類がついていた。そのうちの一つ、やや暗い緑色のまばらな群落をつくるコケを観察した(a)。一次茎は樹幹をはい、そこから立ち上がるように二次茎を出し、側方にやや樹状に枝を広げる。葉を覆瓦状につけ、乾燥すると葉は茎に密着し、縮れることはない(b〜e)。
 二次茎の葉は卵形〜卵状披針形で、長さ2.5〜3.0mm、葉先は急に細くなり、葉面は凹んで顕著な縦皺がみられる(f, g)。葉縁は全縁で、細くて弱い中肋が葉長の2/3あたりに達する。葉身細胞は長楕円形〜長い六角形で、長さ25〜45μm、平滑でやや厚膜(h)。葉頂部では菱形で長さ15〜25μm(i)、葉基部の中央部では長楕円形で長さ35〜55μm(k)、翼部では長さ10〜20μmの小さな方形の葉身細胞が並ぶ(j)。葉の横断面には弱々しい中肋がみられる(l)。枝葉は茎葉とほぼ同じ形で、長さ1.8〜2.2mm、葉身細胞などの様子は二次茎の葉とほぼ同様。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 茎の横断面、(n) 胞子体と苞葉、(o, p) 苞葉、(q) 苞葉の葉身細胞、(r) 苞葉基部、(s) 胞子体、(t) 朔と帽、(u) 帽の毛、(v) 朔歯、(w) 朔基部の外面、(x) 胞子

 茎の横断面に中心束はなく、外皮は小さな厚膜の表皮細胞からなる(m)。苞葉は披針形で、長さ1.0〜3.2mm、中肋はほとんど無く、あっても目立ちにくく非常に弱々しい(o, p)。苞葉の葉身細胞は長い楕円形で、長さ30〜65μm、やや厚膜で平滑(q)。苞葉の基部では、葉身細胞は長さ25〜50μm、幅15〜20μmの矩形となっている(r)。
 朔柄は長さ1.5〜2.5mmで、苞葉の外にまで延び、その先に朔をつける(d, e, s)。帽は僧帽状で、表面から長い毛がでる(s〜u)。朔は卵形〜長卵形で、やや尖った円錐形の蓋をつける(s, t)。朔歯は16枚(v)。朔の表面に気孔はない(w)。胞子は卵形〜類球形で、径25〜30μm(x)。

 イトヒバゴケ科 Cryphaeaceae スズゴケ属 Forsstroemia の蘚類だと思う。保育社図鑑でスズゴケ属の検索表をたどるとスズゴケ F. trichomitria に落ちる。種の解説を読むと観察結果とほぼ合致する。平凡社図鑑とNoguchi(Part3 1989)の解説も観察結果とほぼ符合する。
 採取した標本は多くの朔をつけていたが、すっかり老成してしまった朔と若くて蓋を分離できない朔しかなかった。このため、朔歯の観察は全くできず、痕跡的に残るという内朔歯は観察できず、口環が分化しないということも確認できなかった。また、朔の表面基部を詳細に観察してみたが、どの朔にも気孔はなかった。