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[標本番号:No.813   採集日:2009/12/13   採集地:栃木県、栃木市]
[和名:サクラジマツヤゴケ   学名:Entodon calycinus]
 
2009年12月18日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b, d) 標本:乾燥時、(c, e) 標本:湿時、(f) 茎の横断面、(g, h) 葉、(i) 葉の葉身細胞、(j) 葉の先端、(k) 葉の基部、(l) 葉の横断面

 栃木市の沢沿いの小径で(alt 230m)、壁面脇から突き出した枝に朔を多数つけたややツヤのある蘚類がついていた(a)。樹木の小枝の上を細い一次茎がはい、二次茎が立ち上がりわずかに分枝する。乾燥すると葉が茎に接するようになり、湿ると葉を展開する(b〜e)。茎の横断面に弱い中心束があり、表皮はやや小形で厚膜の細胞からなり(f)、には中心束はない。
 茎葉と枝葉とは形や葉身細胞の様子はほとんど同じで、茎葉がやや大きい。ここでは、枝葉をについて記述する。葉は卵状披針形〜長卵状披針形で、長さ2.0〜2.2mm、先端はやや急に尖り、上部の葉縁に微細な歯があり、他はほぼ全縁。中肋は二叉して短い(g, h)。
 葉身細胞は線形で、長さ60〜80μm、平滑で薄膜(i)。葉頂付近の葉身細胞はやや短く(j)、翼部には方形の細胞が5〜6列にわたって密に並ぶ(k)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 内雌苞葉、(n) 内雌苞葉と外雌苞葉、(o) 苞葉の葉身細胞、(p) 苞葉先端、(q) 苞葉基部、(r) 若い胞子体、(s) 老朽化した胞子体、(t) 帽と若い朔、(u) 老朽化した朔、(v) 外朔歯表面、(w) 外朔歯裏面:内朔歯が破片として付着、(x) 胞子

 雌苞葉は長さ4mmを越える内雌苞葉と、長さ1〜2mmの外雌苞葉とからなり、内雌苞葉は朔柄を包み込むような鞘状の基部から長く芒となって伸びる(m, n, r)。雌苞葉の葉身細胞は線形で長さ100〜180μm、幅8〜10μmで平滑。基部では矩形で、長さ40〜65μm、幅20〜30μm(q)。
 朔柄は黄褐色で長さ6〜9mm、平滑。朔は相称で直立し、僧帽形の帽をもち、嘴形の蓋を持つ(r〜u)。朔は長卵形〜筒状で長さ1.5〜2.0mm、基部にはまばらに気孔がある。
 朔歯は一重か二重か不明で、16枚の外朔歯しか見えず、口環がよく発達している(v)。外朔歯を腹面側からみると、バラバラになった破片状となった組織が多数付着している(w)。胞子は類球形で、径15〜25μm(x)。

 多数の朔がついていたにも関わらず、既に蓋も胞子もなく干からびた状態の朔(s, u)と、未熟で蓋が分離できない若い朔(r, t)しかなかった。このため、朔歯だけを分離して観察することはできず、外朔歯の正確な姿を捉えることができず、内朔歯があるのか痕跡的な破片として残っているのかをきちんと確認することはできなかった。

 ツヤゴケ科 Entodontaceae ツヤゴケ属 Entodon の蘚類だと思う。平凡社図鑑の検索表にあたってみた。口環があり、全長4mmを越え長い芒をもつ内雌苞葉があることからサクラジマツヤゴケ E. calycinus に落ちる。種の解説を読むと、おおむね観察結果と符合する。図鑑には「内朔歯の歯突起は破片状で外朔歯に付着する」とある。あらためて、外朔歯を裏側からみたが、やはり破片状の歯突起は明瞭には捉えられなかった。