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[標本番号:No.820   採集日:2009/12/13   採集地:栃木県、栃木市]
[和名:ホソバオキナゴケ   学名:Leucobryum juniperoideum]
 
2009年12月20日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 標本、(c, d) 葉、(e) 葉身細胞:表面に合焦、(f) 同前:葉緑細胞に合焦、(g〜k, l) 葉の横断面:先端部(g)から基部(k)へ

 寺社林で杉の樹幹基部から根にかけてホソバオキナゴケ Leucobryum juniperoideum らしき蘚類が多数ついていた(a)。茎は高さ1.5〜2.0cm、多数の朔柄をつけていたが、朔を伴ったものは少なかった(b)。全体にあまりツヤはなく乾いても湿時と姿は変わらない(alt 400m)。
 葉は長さ4〜5mm、卵形の基部から披針形の上部が延び、腹面側は深く凹む(c, d)。披針形に変わるあたりで背側に反曲する。葉身細胞は背腹ともに透明細胞が表皮を構成し、ほぼ矩形(e)。内部の細い葉緑細胞に合焦すると葉に平行に並んでいる姿が見える(f)。
 葉の横断面で背腹に透明細胞が層をなし、中央に菱形の葉緑細胞が挟まれている。葉の基部では透明細胞が背面側に3層、腹面側に1〜2層をなし、基部中央ではくびれて背腹ともに透明細胞は1層となっている(k)。葉の基部以外の大部分の葉身では、横断面で背腹共に透明細胞は1層となっている(g〜j, l)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 茎の横断面、(n) 胞子体、(o) 朔:帽と蓋と朔歯、(p) 朔歯、(q) 朔の表皮基部、(r) 朔歯、(s) 朔歯:表側基部、(t, v) 同前:裏側基部、(u) 同前:先端部、(w) 同前:裏側上部、(x) 胞子

 茎の横断面に中心束はない(m)。胞子体は主茎の頂部からよりも、短い側枝の先から出るものが圧倒的に多い。朔柄は赤褐色で長さ7〜10mm。朔は卵形で傾き、非相称で、僧帽状の帽があり、蓋には長い突起がある(n, o)。朔には気孔はない(q)。
 朔歯は一重で16枚、披針形で中程で二列し、歯先は芒となって長く伸びる(p, r)。朔歯の外側下部には太い横縞があり、それぞれの縞を細かい縦条が繋ぐ(s)。朔歯内側下部には太い横縞があり、それぞれの横縞には微細な紐状のイボが多数ついている(t, v)。朔歯上部では表面に針状〜紐状のイボが多数ついている(u, w)。胞子は球形で径12〜20μm(x)。

 当初からホソバオキナゴケだろうと思ったが、朔をつけていたこと、側生の朔柄が多かったので、それらが気になって採取したものだ。今回の観察では、葉の横断面を50〜60枚切り出すことになった。というのは、葉基部の横断面をいくら切っても、透明細胞が背腹ともに1層しかなく(i)、複数層からなる葉がなかなか見つからなかったためだ。数多くの葉の基部横断面を切り出した結果、ようやく透明細胞が複数層をなすものを少数見つけた(k)。いずれにせよ、標本の葉基部には、その大部分で、背腹ともに透明細胞はそれぞれ1層しかなかった。
 また、図鑑には朔歯は一重と記されているが、これまでは自らの目で確実に確認したことは無かった。標本No.121に誤って「朔葉は16枚で、内外2層からなり」と記していることを知った。あらためて標本No.121を再確認した結果、これは老朽化した朔跡の一部を見誤ったものだったことが判明したので「修正と補足」を加えて訂正した。