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[標本番号:No.827   採集日:2009/12/13   採集地:栃木県、鹿沼市]
[和名:シモフリゴケ属   学名:Racomitrium sp.]
 
2010年1月2日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(a, b) 植物体、(c) 乾燥時、(d) 半湿時、(e) 乾燥時、(f) 湿時、(g, h) 葉、(i) 葉の先端部、(j) 葉身細胞、(k) 葉頂部、(l) 葉の翼部、(m, n) 葉の横断面、(o) 茎の横断面、(p) 朔をつけた個体、(q) 胞子体、(r) 朔と帽

 前日光林道を足尾方面に向かう途中、粕尾峠下の河原で(alt 840)、転石の表面に群生していた蘚類を採取した(a, b)。雨の後だったせいで、葉を展開させていた。乾燥すると葉が茎に密着する(b, e)。朔をつけた個体もいくつかあった。
 茎は高さ2.5〜4.5cm、不規則に枝を出し(c, d)、横断面に中心束はなく表皮細胞は小さい(o)。葉は卵形の基部から漸尖して披針形に延び、長さ3〜4mm、葉縁は反曲し、葉上半部では中肋を軸にほぼ直角に折れ曲がり、先端付近では筒状となる(g, h, i)。葉頂部に透明尖はない。葉に縦皺はない。中肋は弱く、葉頂には達しない。中肋以外の葉面は一細胞層からなる。
 葉身細胞は矩形で、葉中央部では長さ15〜25μm、基部では30〜45μm、縦の壁が波状に肥厚し、表面は腔上にも壁上にも多数の小さな乳頭がある。翼部は細胞が長くなるだけでほとんど分化せず、葉縁に一列だけ、平滑でやや薄膜の矩形の細胞が15〜25個並ぶ(l)。葉の横断面で、乳頭は低く、中肋にはガイドセルはなく、ステライドの有無は不明瞭(m, n)。
 朔柄は黄緑色〜黄褐色で、長さ8〜12mm、表面は平滑(c, p, q, aa)。朔は長卵形〜楕円形で、僧帽形の帽と、長い嘴状突起のある蓋をもつ(r)。帽は朔の上半部を覆う。乾燥すると朔の表面は縦に隆起したような太い皺ができる(q, r)。
 
 
 
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(a 朔歯:蓋の裏面から、(t) 朔、(u) 朔の基部、(v) 朔の中央下部、(w) 朔の先端部、(x) 口環、(y) 朔基部の気孔、(z) 胞子、(aa) 朔柄の一部、(ab) 朔の一部、(ac) 葉の先端部、(ad) 葉基部の縁

 朔歯は一重で16枚からなり、ひとつ一つは披針形〜線状披針形、基部近くで二裂し、表面はイボ状の乳頭に覆われる(s〜x)。口環が発達する(x)。朔の基部には気孔がある(y)。胞子は径15〜18μm。

 朔をつけた個体は数十個あり、外見からは十分成熟しているように見えたが、いずれも蓋と本体を外せる状態のものはなかった。そこで、蓋を含めて縦に半切し、内側から朔歯の形や本数を確認した(s)。胞子も未成熟なのかもしれない。
 シモフリゴケ属 Racomitrium の蘚類だろうと思う。保育社図鑑の検索表からはミヤマスナゴケ R. fasciculare ないしナガエノスナゴケ R. fasciculare var. atroviride に落ちる。同図鑑で種の解説を読むと、観察結果はミヤマスナゴケの解説と近い。採取地は「高地」とは言い難く、以前採取してミヤマスナゴケと同定した標本No.337と比較すると、全体の枝振り、葉上半部の折れ曲がり方がやや異なる。また、葉身細胞の乳頭が低く、中肋も弱い。一方、ナガエノスナゴケの解説を読むと「茎は長く10cm以上になる」「(葉)基部には明瞭な縦ひだがある」ことが異なる。
 平凡社図鑑の検索表からもナガエノスナゴケないしミヤマスナゴケに落ちる。しかし、ナガエノスナゴケには「体は壮大」とあり、種の解説にも「大形で、長さ10cmに達し」「葉の基部にしわができる」とある。本標本は壮大でもなく、葉の基部にしわがあるとも言い難いように思える。
 Noguchi(Part2 1988)でR. fasciculare と R. fasciculare var. atroviride の両者を読んでみても決定的な差異がいまひとつよく分からない。いずれにせよ広義のR. fasciculare だと思う。その意味ではミヤマスナゴケの和名をあててもよいのかもしれない。