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[標本番号:No.848 採集日:2010/02/21 採集地:千葉県、鋸南町] [和名:クチヒゲゴケ 学名:Trichostomum brachydontium] | |||||||||||||
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先の日曜日に久しぶりに千葉県房総半島南部を訪れた。標高180mあたり、鋸山南東面にある駐車場の道路法面に古い朔を残して群生しているコケを採取した。モルタルを吹き付けた面に薄く土がのり、その上に地衣と混生してついていた(a, b)。 茎は高さ5〜8mmで下部は土に埋もれてすぐに千切れてしまう。乾燥すると葉が管状となって巻縮し、湿ると再び展開する(c, d, w)。葉は長さ1.5〜2.1mm、長舌形〜広披針形、鋭頭〜やや鈍頭、全縁、上部がやや内曲し、先端部が突出する(e, f, g)。中肋は強く、葉頂部に達する。 葉身細胞は方形〜多角形で、長さ5〜8μm、中肋近くで厚壁、葉縁では薄壁でやや透明、表面には表裏共に4〜6個の小乳頭があり暗い(h, l)。葉頂の突出部の細胞には乳頭はない(g)。葉の基部の葉身細胞は薄膜矩形で表面は平滑(i, k)。翼部は分化しない。 葉の横断面で中肋にはガイドセルがあり、背腹両面にステライドがある。中肋腹面にはガイドセルよりは小さいが、やや大きな細胞が並び、細胞表面には葉身同様に小乳頭がある(j〜l)。茎は茶褐色で、横断面で不明瞭な中心束があり、表皮細胞は薄膜でやや未分化(m, n)。 |
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古い朔が残っていたが、すでに帽はなく、大部分の朔には蓋も残っていなかった(b, c, d)。ごく一部の朔に蓋が残っていた。朔は円筒形で、蓋は長く尖り、朔柄は長さ3〜6mm(c, d, o, p)。朔歯は基部が残っていた(t, u)。朔歯基部は不規則に肥厚し表面は微細な乳頭に覆われている(v)。朔柄の横断面には中心束のようなものがあり、表面は厚膜となっている(q, r)。 また、標本を普通にみているときには、胞子体は頂生しているようにみえたが(c, d)、よく見るとどうやら側生しているようだ(o)。近辺の葉を取り除いてみるとさらに明瞭になった(p)。胞子体基部の柄が配偶体に陥入する部分で横断面を切ってみた(s)。朔は古すぎて観察に絶えず、気孔の有無もはっきりしなかった。
センボンゴケ科 Pottiaceae の蘚類だろう。平凡社図鑑の検索表をたどると、葉基部の大形薄壁の透明細胞群が葉縁に沿ってせり上がっているか否かで枝が分かれる。本標本の葉では「せり上がっていない」ように思えるが、見ようによっては「せり上がっている」ともとれる。検索表からはツツクチヒゲゴケ属 Oxystegus とクチヒゲゴケ属 Trichostomum が最終的に候補に残った。
[修正と補足:2010.02.25] |
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中肋腹面の表皮細胞には葉身細胞表面と同じように多数の小乳頭があり、背面の表皮細胞は細長い細胞からなり、多くの細胞端にはひとつの乳頭があり縦一列に並ぶ(xa, xb)。 何本かの茎から葉を取り除きながら葉腋をじっくりと観察した(xc)。無色透明の細い葉腋毛があり、茶褐色の仮根とは明瞭に区別できる(xd)。平凡社図鑑の検索表では、クチヒゲゴケ属とコゴケ属を、葉腋毛の細胞数で分岐させている。 葉腋毛があることがはっきりしたので、5〜6個体の葉を取り除き、葉腋毛の細胞数を数えてみた。悪いことに、多くの葉腋毛が途中から千切れている。先端まで残っているものは、細胞数が5〜7つのものが多く(xe)、千切れたものは4〜6細胞からなるものが多かった(xd)。 平凡社図鑑にしたがえば、クチヒゲゴケ属(8〜15細胞)よりもコゴケ属(3〜5細胞)に近い。そこでまず、コゴケ属の検索表にあたった。するとヤマトトジクチゴケ W. deciduaefolia とツチノウエノコゴケ W. controversa、ツチノウエノカタゴケ W. planifolia が候補にあがる。しかし、葉が早落性ではないからヤマトトジクチゴケではない。また、葉形が披針形〜線状披針形とは言い難いからツチノウエノコゴケの可能性も低い。ツチノウエノカタゴケについて平凡社図鑑には種の解説はない。そこで Noguchi(Part2 1988)にあたると、この種はツチノウエノコゴケと似ているが葉がずっと丈夫だという。葉形、葉先の形、朔柄の長さなどもNoguchiの記述とはやや異なる。 そこで、クチヒゲゴケ属にもどって図鑑の検索標をたどると、クチヒゲゴケ T. brachydontium が候補に残る。これも種の解説がないので Noguchi(Part 1988)にあたってみた。背丈についてはかなり異なるが、他の形質は本標本と比較的符合する。ツツクチヒゲゴケとするよりもクチヒゲゴケとする方が、観察結果との矛盾が比較的少ないように思える。
[修正と補足:2010.02.27] |
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一般の生物顕微鏡では合焦位置を少しずつずらすことによってパピラの様子を捉えることになる。目視では明瞭に捉えられるパピラも一断面を撮影すると、うまく表現することは難しい。そこで、中肋背面の表面と側面の両者に合焦して撮影した。サフラニンで染めるとパピラの様子がよりはっきりと捉えられるので、この画像も掲げておこう。 | |||||||||||||