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[標本番号:No.852 採集日:2010/02/21 採集地:千葉県、鋸南町] [和名:ヒメミノゴケ 学名:Macromitrium gymnostomum] | |||||||||||||||||||
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先月21日千葉県南房総の鋸南町で、目の高さほどの樹幹に着いたこけを採取した(alt 300m)。樹皮をはう茎は基部でいくつにも枝分かれし(e)、そこから長さ1〜2.5cmの枝を出す。枝からは、0.5〜0.8mmの短い支枝が立ち上がり、支枝には葉が密集する(b, d)。乾燥すると葉が強く巻縮する(a, c)。 枝葉の上部は竜骨状に凹み、長さ1.5〜2.5mm、舌状披針形〜楕円状披針形で、先端はやや微円頭〜鋭頭(f, g, k)。葉幅は中央上部〜基部までほぼ同じ。中肋は1本で強く、葉頂近くに達する。葉中部の葉身細胞は方形〜多角形で、長さ6〜10μm、3〜5個の小乳頭があって暗く、葉身細胞の輪郭はやや不明瞭(h, i, j, m)。葉基部の細胞は矩形〜細い矩形で、やや厚壁で平滑(l)。葉の横断面で中肋にはガイドセルがあり、葉上部から中央部では中肋背面側にステライドがある(n, o, p)。支枝の横断面や茎の横断面には中心束はなく、表皮細胞はやや厚壁(q, r)。 |
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一群の支枝頂部の葉に無性芽のような葉状の小片が多数ついている(s, t)。この葉状の小片は1層の細胞からなり、細胞は方形〜多角形で、長さ6〜8μm、表面には小乳頭があり、やや薄壁だが葉身部の細胞とよく似ている(u)。
ミノゴケ属 Macromitrium の蘚類だろう。この属に関しては、保育社図鑑でも平凡社図鑑でも、取り上げている種も解説はほとんど同一だ。本標本には朔をつけた個体はなく、検索表をたどることは難しい。配偶体についての解説を観察結果と比べて推測するしかない。
[修正と補足:2010.03.14] |
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先に、倍率を上げて表面をみたとき微少な乳頭のようにみえたのは、菌糸端だったようだ(wc)。これをフロキシンで染めて、3%KOHでほぐして見ると、明瞭に藻類と菌類が入り組んだ姿がはっきりした。封入に用いたGAW液は、地衣類では常用するもので、グリセリン:エタノール:水 = 1:1:1の混合液。試薬(K, C, KC, Pd)を用いた呈色反応はすべてマイナス。アセトンを用いての地衣成分(二次代謝産物)抽出の試みも徒労に終わった。抽出成分はほとんどゼロで、いくつかの試薬でも結晶はできなかった。結局この地衣類の所属は不明のままだ。 なお、本標本はリュウキュウミノゴケかヒメミノゴケのいずれかであろうが、胞子体がないので決め手に欠ける。とりあえず、このまま Macromitrium sp. のままとしておこう。
[修正と補足:2010.05.13]
Noguchi(Part3 1989)には確かに、そうも読み取れる記述がされている。しかし、これは両種を比較して書かれた記載ではないので、ヒメミノゴケの葉身細胞がリュウキュウミノゴケの葉身細胞より厚いということにはならない。同じ著者による『日本産蘚類概説』(1976)では、むしろヒメミノゴケよりもリュウキュウミノゴケの葉身細胞の方が厚い、と表現されているように読み取れる。
そこで、標本を再度ひっぱりだして、以下の2点に絞って再検討してみた。まず枝葉の形と基部の色だが、基部は広くならず、黄色に着色していない(xc, xd)。これは画像を掲げたものばかりではなく、さらに多くの他の個体でもいえる。葉の形はヒメミノゴケを示唆している。 |
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以上のように葉身細胞の膜の厚さ、大きさからは決め手にかけるが、葉の基部の形と色からはヒメミノゴケを示唆している(・・・朔さえついていれば、両者は明確に識別できるはずだ)。機会があれば、いずれ同じ採取地で朔のついたものを採取したいと思う。 なお、細胞列をバラすのには、葉を10%ほどの濃度のKOHに5分ほど浸してから、カバーグラスを掛けて軽く左右に揺さ振りながら押し潰した。その状態でカバーグラスを外して、実体鏡の下でより分けた。葉の色が赤みを帯びているのはKOHのためだ(xd〜xj)。 |
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