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[標本番号:No.0949   採集日:2010/05/22   採集地:東京都、奥多摩町]
[和名:ホンシノブゴケ   学名:Bryonoguchia molkenboeri]
 
2010年5月26日(水)
 
(a)
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(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
(l)
(a, b) 植物体、(c) 標本、(d) 乾燥時、(e) 湿時、(f) 茎葉と枝、(g, h) 茎葉、(i) 茎葉の葉身細胞、(j) 茎葉の基部、(k) 茎葉先端、(l) 茎葉の葉身の一部

 奥多摩の石灰岩地で、セイナンヒラゴケが群生する石灰岩壁と水流を挟んで対岸の岩にシノブゴケ科 Thuidiaceae の蘚類が群生していた(alt 680m)。トヤマシノブゴケ Thuidium kanedae にしては、やや硬い感じで枝振りもちょっと異なるように思えたので持ち帰っていた。
 岩を匍う一次茎は、長さ10〜15cmほどあり、褐色を帯び茎葉はほとんど崩れている。かなり密に分枝し、二次茎からは直角気味に枝が出て、左右同じような長さに伸びている。左右の枝は長さ3〜8mmほどで、茎や枝の表面には密に毛葉がついている。
 茎葉は広卵形の基部から急に細く刺状に尖り、長さ1〜1.2mm、葉面には深い凹凸と縦しわがあり、葉先は鋭頭ではあっても透明にはならない。葉縁は全縁で強く反曲し、中肋は葉頂に達する。葉身細胞は長い楕円形で、長さ20〜30μm、葉身中央付近では平滑だが、葉身細胞の多くには背面中央にひとつの大きな葉牙状の乳頭がある。
 枝葉は非常に小さく、長さ0.1〜0.4mm、広卵形の基部から急に細くなって、状部は広い披針形となり、全周に歯があり、上半部の縁の歯はするどい。枝葉の中肋は葉頂には届かない。枝葉の葉身細胞は菱形〜紡錘形で、長さ10〜25μm、腹面は平滑で、背面中央には歯牙状の大きな乳頭が一つある。茎葉や枝葉の基部中央には毛葉がつく。
 
 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(s)
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(t)
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(u)
(u)
(v)
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(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 茎葉中肋基部の毛葉、(n) 枝、(o) 枝葉背面、(p) 枝葉腹面、(q) 枝葉上部の背面、(r) 枝葉上部の腹面、(s) 枝葉背面の歯牙、(t) 枝葉の先端、(u) 二次茎表面の毛葉、(v, w) 毛葉、(x) 二次茎と枝の横断面

 朔をつけた個体は見つからなかった。ホンシノブゴケ Bryonoguchia molkenboeri だと思う。現地ではオオシノブゴケ Thuidium tamariscinum やコバノエゾシノブゴケ T. delicatulum の可能性もあると感じていたが、枝葉背面の乳頭の形、毛葉の先端の様子、などからホンシノブゴケとするのが妥当と考えた。本標本の茎葉は一様に小振りだった。