HOME  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.0931   採集日:2010/05/16   採集地:山梨県、鳴沢村]
[和名:ミヤマクサゴケ   学名:Heterophyllium affine]
 
2010年7月8日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a, b) 植物体、(c) 標本、(d) 半乾燥時、(e) 茎葉と枝葉, (f) 茎葉、(g) 茎葉の葉身細胞、(h) 茎葉の翼部、(i) 茎葉先端、(j) 枝葉、(k) 枝葉の基部、(l) 葉の横断面

 5月16日に富士山の五合目近くや奥庭周辺でいくつかの蘚苔類を採集した。そのうちの一つ、やや薄暗い樹林の腐朽材や腐植土に広がっていた蘚類を観察した(alt 2400m)。植物体はマット状に広がり、密に羽状に分枝し、ややツヤがある。葉を含めた枝の幅は0.8〜1.0mm、乾燥すると葉がやや枝に接し気味になる。
 茎葉は長さ2.0〜2.4mm、卵形の葉身部から急に細くなって長く尖る。枝葉は長さ0.8〜1.2mm、形は茎葉とほぼ同じ。茎葉・枝葉ともに、先端部の縁にはやや大きめの鋭い歯があり、基部は褐色の明瞭な区画がある。中肋はほとんど目立たないか、非常に短く二叉する。茎葉の葉身細胞は線形で、長さ35〜50μm、やや厚壁、平滑。翼部は明瞭に分化し、褐色で方形の細胞が縦横にいくつか並ぶ。枝葉の葉身細胞も茎葉とほぼ同じ。茎や枝の横断面に中心束はない。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 茎の横断面、(n) 朔、(o) 朔歯、(p) 外朔歯、(q) 外朔歯基部、(r) 外朔歯上部、(s) 内朔歯、(t) 内朔歯下部、(u) 内朔歯中央部、(v) 内朔歯上部、(w) 割れた外朔の歯表皮、(x) 朔の気孔

 朔柄は2〜3cm、朔は傾いてつき、非相称。朔歯は二重で、各々16枚。外朔歯は披針形で、基部には細かな横状があり、先端部の表面には微細な乳頭が見られる。内朔歯は基礎膜が中程に達し、間毛があり、歯突起の先は二つに割れ、中央に間隙がある。朔には気孔がある。

 ナガハシゴケ科 Sematophyllaceae モリクサゴケ属 Heterophyllium のミヤマクサゴケ H. affine だろう。採取した個体には朔が比較的少なく、既に蓋をつけたものはなかった。また、口環の有無ははっきりわからない。外朔歯は黄褐色、内朔歯は淡い黄褐色だが、KOHで封入すると赤みが強くなった。さらに、外朔歯を封入したカバーグラスに圧力を加えると、外朔歯表皮層がきれいに割れた(w)。