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[標本番号:No.0933 採集日:2010/05/16 採集地:山梨県、鳴沢村] [和名:キノウエノコハイゴケ 学名:Hypnum pallescens] | |||||||||||||||||||
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5月16日に富士山の五合目付近で枝や樹幹、樹根についていたハイゴケの仲間を観察した(alt 2400m)。茎は匍い、不規則羽状に長さ2〜4mmの枝を出し、葉を含めた枝の幅は0.5〜0.8mm。横断面で茎の表面の細胞は小形で、明瞭な中心束がある。 茎葉は長さ1.0〜1.8mm、卵形の基部から急にあるいは次第に細くなって細く鋭頭、葉先は強くまたは弱く鎌状に曲がる。葉上部の縁には微細な歯があり、中肋は2本で弱く短い。茎葉の葉身細胞は線形で、長さ20〜60μm、幅3〜5μm、やや厚壁で平滑。基部の細胞は黄褐色〜黄緑色で、翼部には少数のやや大形で褐色透明な細胞があり、膜はやや厚く、その上に小形で方形の細胞が数個みられる。枝葉は長さ0.7〜1.2mm、茎葉と似たような形だが、上部は強く鎌形に曲がる。葉身細胞の形や大きさ、翼部の細胞の様子などは茎葉とほぼ同様。 偽毛葉は披針形〜小葉状。雌苞葉は広い披針形〜卵状三角形で、縦皺はなく、葉先は鋭く尖り縁に歯がある。雌苞葉の葉身細胞は線形で、長さ20〜80μm、幅5〜8μmでやや厚膜、平滑。雌苞葉基部の細胞は褐色で長い矩形。雌苞葉に中肋の有無は不明。 |
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朔柄は褐色〜赤褐色で1.0〜2.5cm、朔はやや傾き、非相称。朔の帽は僧帽状、蓋は円錐形で短い嘴があり、朔は卵形。朔歯は二重で、各々16枚。外朔歯は披針形で、下半部には細かい横状があり、先端付近には微細な乳頭がある。内朔歯は高い基礎膜を持ち、間毛が1〜2本あり、歯突起に続く部分は深く二裂し、内朔歯全体に微細な乳頭がある。朔には明瞭な口環があり、朔の基部には気孔がある。胞子は球形で径20〜25μm。 未成熟の朔の蓋には、円錐の頭部にやや長めの嘴があるが、成熟した朔の蓋では長い嘴はみられなかった。ただ、先が折れたようにも見える(z, aa)。雌苞葉は乾燥時には顕著な縦皺が見られるものもあるが、湿らすと縦皺は痕跡的、あるいはほとんどみられない。 採取時、現地ではイトハイゴケ Hypnum tristo-viride だろうと考えていた。発生環境もさることながら、ルーペを使って観察する限りではイトハイゴケに間違いなかろうと思っていた。ところが、茎の横断面を切ってみると、明瞭な中心束がある(o, p)。いくつもの茎で確認したが、結果は同様だった。さらに朔には明瞭な口環がある(ah)。そこで改めて平凡社図鑑のハイゴケ属検索表にあたりなおした。すると、キノウエノコハイゴケ H. pallescens が候補に残る。同図鑑の検索表には「翼部の方形細胞は葉縁に沿って8-15個」とあるが、本標本ではそれほどの数はない。一方、同図鑑の解説には同じ内容の説明に「ふつう」と形容されている。さらに説明には「雌苞葉には強い縦じわがある」となっているが、本標本の雌苞葉には「強い縦しわ」はない。さらにNoguchi(Part5 1994)のキノウエノコハイゴケの記載は、観察結果と符合する点が多い。同書の図には明瞭な口環が描かれている。これらの考察から、典型的なものからはやや離れているが、本標本をイトハイゴケとはせずキノウエノコハイゴケと考えた。なお、生態写真は次の課題だ。 |
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