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[標本番号:No.0984   採集日:2010/07/28   採集地:宮城県、蔵王町]
[和名:マルダイゴケ   学名:Tetraplodon mnioides]
 
2010年8月2日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
(g)
(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
(r)
(a, b) 植物体、(c) 標本、(d) 湿時、(e) 乾燥時、(f, g 葉、(h) 葉の上部、(i) 葉の下部、(j) 葉身細胞、(k) 葉の基部、(l) 葉の先端部、(m, n) 葉の横断面、(o) 茎の横断面、(p, r) 朔:乾燥時、(q) 朔:湿時

 宮城蔵王刈田岳への登山道の脇で(alt 1730m)、マルダイゴケに出会った。茎は長さ2〜3cm、密に固まって生え、上部のわずかの葉だけが緑色で、中下部の葉は褐色となり仮根に覆われている。赤黒色の朔は乾燥してやや縮み、既に蓋はなかった。乾燥すると葉はわずかに縮む。
 葉は黄緑色で柔らかく、長さ3〜3.5mm、長卵形で全縁、葉先は急に細くなって尖る。中肋は1本で葉頂に達する。葉身細胞は矩形〜六角形で、長さ35〜65μm、幅18〜25μm、平滑で薄壁、基部では長さ60〜80μmの矩形となり、頂部の細胞はやや厚膜。葉の横断面で、中肋には中心束のようなものがあるが、ステライドはない。茎の横断面に中心束はなく、表皮細胞はあまり分化していない。
 朔柄は頂生し、赤褐色で長さ1〜1.5cm。朔は頸部がよく発達し、ボーリングピンのような形となり、直生で相称。採取した標本では、朔はすっかり乾燥し、表面には多数の皺がよっていたが、30分ほど水没させると、皺は消えて艶を帯びた姿となった。
 
 
 
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(s) 朔歯の開閉、(t) 朔歯:8対16枚、(u) 朔歯、(v) 朔歯基部、(w) 朔歯上部、(x) 朔の横断面、(y) 朔の気孔:頸部に多数ある、(z) 朔の気孔、(aa) 朔柄の横断面、(ab) 雄花、(ac) 造精器と側糸、(ad) 胞子

 朔歯は一重で8対16枚からなり、ちょっと見た目には8枚しかないように見える。対をなした朔歯は基部で癒着し、それぞれは披針形で、頂部は鈍く丸みを帯び、表面には微細な乳頭がある。朔の頸部は長く壺部の倍以上の幅となり、表面には多数の気孔がある。雄花も頂生で多くの造精器と側糸が束になってつく。胞子は球形で、径10〜16μm。

 今回採取した群れは最盛期を過ぎていたらしく、朔は全体にかなり赤黒くなっていて、蓋はすべて失われていた。また、朔歯を開いた姿は、ちょうどカッパの頭を連想させられた。朔歯の先端が尖らず、丸みを帯びていることも特徴的だ。なお、茶褐色となって塊状になった茎の先にはすっかり乾燥しきった小動物の糞がこびりついていた。