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[標本番号:No.0959   採集日:2010/06/06   採集地:栃木県、日光市]
[和名:アラハヒツジゴケ   学名:Brachythecium brotheri]
 
2010年8月16日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
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(j)
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(k)
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(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 標本:乾燥時、(c) 標本:湿時、(d) 乾燥時、(e) 湿時、(f) 茎葉と枝葉、(g) 茎葉、(h) 茎葉上半、(i) 茎葉の葉身細胞、(j) 茎葉翼部、(k) 枝葉、(l) 枝葉の葉身細胞

 6月6日に日光市の鶏頂山で採取したコケをようやく観察することができた(alt 1400m)。朔をつけた蘚類が腐植土から岩にかけて光沢のあるマットをつくっていた。茎は不規則に分枝し、乾燥しても葉は彙状に展開し反り返る。葉を含めた枝の幅は2〜3mm。
 茎葉は広卵形の基部からやや急に細く漸尖し反り返り、長さ2.0〜2.4mm、葉縁の前周に渡って細かい歯がある。茎葉の基部は細く下延する。中肋は葉長の3/4あたりに達する。葉身細胞は線形で、長さ80〜120μm、幅6〜9μm、薄膜で平滑。翼部は明瞭には分化しないが、葉身細胞は薄膜大形の方形で長さ30〜45μm、幅25〜40μm。
 枝葉は広卵形で漸尖し、先端がわずかに鎌形に曲がり、長さ1.6〜2.0mm、葉縁には、前周にわたってやや大きめで明瞭な歯がある。中肋は葉長の3/4〜4/5に達する。枝葉背面の中肋先端は牙となっている。葉身細胞は線形で、茎葉のそれとほぼ同様。翼部も茎葉とほぼ同じ。
 
 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
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(u)
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(v)
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(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 枝葉の翼部、(n) 枝葉の先端、(o, p) 枝葉の横断面、(q) 朔柄基部と苞葉、(r) 苞葉、(s) 苞葉の葉身細胞、(t) 朔と朔柄:乾燥時、(u) 朔と朔柄:湿時、(v) 朔柄:乳頭に被われる、(w) 朔柄の表面、(x) 朔柄の横断面

 苞葉は、長さ2〜3mmで、矩形〜台形状の基部から急に細くなって漸尖し反り返る。苞葉の葉身細胞は線形で長さ80〜130μm、幅8〜10μm、やや厚膜で平滑、膜にはくびれがある。茎や枝の横断面には中心束があり、表皮細胞は厚膜で小さい。
 朔柄は赤褐色で、長さ1.5〜2.0cm、表面には全面に微細な乳頭がある。朔は傾いてつき、卵形で非相称。朔歯は二重で各々16枚。外朔歯は披針形で上部は微細な乳頭に被われる。内朔歯は高い基礎膜をもち、歯突起の間から2本ずつ間毛が伸びる。歯突起には中央に大きな割れ目がある。朔の基部には気孔がある。口環は確認できなかった。
 
 
 
(y)
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(z)
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(aa)
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(ab)
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(ac)
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(ad)
(ad)
(ae)
(ae)
(af)
(af)
(ag)
(ag)
(ah)
(ah)
(ai)
(ai)
(aj)
(aj)
(y) 朔歯、(z) 外朔歯と内朔歯、(aa) 外朔歯、(ab) 外朔歯下部、(ac) 外朔歯中央、(ad) 外朔歯先端、(ae) 内朔歯、(af) 内朔歯下部、(ag) 内朔歯中央、(ah) 内朔歯上部、(ai) 朔基部の気孔、(aj) 枝の横断面

 朔にはすでに蓋や帽は失われ、胞子もほとんど残っていなかった。いずれにせよ、アオギヌゴケ科 Brachytheciaceae の蘚類には間違いないだろう。保育社図鑑でも平凡社図鑑でも、属への検索表では朔の蓋の形状で分かれるが、アオギヌゴケ属 Brachythecium 以外該当する属はなさそうだ。平凡社図鑑で属の解説を読むとほぼ合致する。同図鑑の検索表からはアラハヒツジゴケ B. brotheri に落ちる。種の解説を読むと観察結果とほぼ符合する。
 先にアラハヒツジゴケと同定した標本No.523では、一部の茎葉や枝葉が典型的な形からやや遠かったが、今回の標本のそれは、比較的典型的なものに近いようだ。念のために標本No.523を再検討してみたが、本標本(No.959)と同じような形の茎葉や枝葉の個体が多かった。