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[標本番号:No.0968   採集日:2010/06/12   採集地:長野県、山ノ内町]
[和名:トウヨウチョウチンゴケ   学名:Mnium orientale]
 
2010年8月20日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
(r)
(a, b) 植物体、(c) 標本:乾燥時、(d) 標本:湿時、(e, f) 茎上部と下部の葉、(g) 上部の葉、(h) 葉の背面上部、(i) 葉の縁:双生の歯、(j, k) 葉身細胞、(l) 鞘部の葉身細胞、(m) 葉の先端、(n, o) 葉の横断面、(p) 葉縁と葉面の横断面、(q) 下部の三角形の葉、(r) 下部の葉の葉身細胞

 志賀高原の標高1580mあたり、やや開けた湿気の多い流水近くの腐葉土や岩についていた蘚類を観察した。茎は立ち、高さ2〜2.5cm。乾燥すると葉が捻れてゆるく縮む。茎の下部は仮根に被われ、赤褐色の小さな三角形の葉を多数つける。
 上部の葉は長卵状披針形〜楕円状披針形で、長さ3.5〜5mm、基部は鞘状となって茎に広く下延し、上部は鋭く尖る。葉縁には数細胞からなる明瞭な舷があり、鞘部近くまで双生の歯が並ぶ。中肋は強く、葉頂近くに達する。中肋背面上部には鋭い歯が並ぶ。
 葉身細胞は矩形〜六角形で、長さ15〜25μm。葉身細胞は下部では矩形となり、中肋近くで長さ30〜45μmとなり、鞘部ではさらに大形の矩形〜長い六角形となる。葉頂付近の葉身細胞は、幅が狭い。いずれの部分でも葉身細胞は平滑で、やや厚膜で、厚角にはならない。葉の横断面で、中肋にはガイドセルがあり、背腹両面にステライドが発達している。横断面で舷は数細胞の厚みがある。
 茎の下部の三角形の小さな葉は、長さ1.2〜2mmで、茎の中程の葉では舷と中肋が赤褐色で、茎上部の葉と似通った葉身細胞を持つ。葉縁には舷があるが、双生の歯はない。茎の中程から下の葉は、さらに小さく、全体が赤褐色となり、葉身細胞は、厚膜の六角形となっている。これらの三角形の小さな葉は、茎の下部に近づくにつれて、仮根に埋もれるように着いている。
 苞葉は線形で、長さ2〜5mm、葉縁には厚い舷と双生の歯がある。中肋は強く、葉頂近くに達し、背面には歯がある。葉身細胞は、長めの矩形〜六角形で、茎上部の葉の中程から下部のものとよく似ている。茎の横断面には中心柱があり、表皮は厚壁の小さな細胞からなる。
 
 
 
(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
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(x)
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(y)
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(z)
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(aa)
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(ab)
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(ac)
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(ad)
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(ae)
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(af)
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(ag)
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(ah)
(ah)
(ai)
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(aj)
(aj)
(s) 下部の葉の葉身細胞:別のタイプ、(t) 下部の三角形の葉の横断面、(u, v) 苞葉、(w) 苞葉の背面上部、(x) 茎の横断面、(y) 朔:乾燥時、(z) 朔:湿時、(aa) 朔と朔歯:乾燥時、(ab, ac) 口環、(ad) 朔歯、(ae) 外朔歯、(af) 外朔歯下半 、(ag) 外朔歯上半、(ah) 内朔歯、(ai) 内朔歯下半、(aj) 内朔歯上半

 朔柄は長さ2〜3.5cm、黄褐色〜赤褐色で平滑。朔はほぼ相称だが、傾いて垂れ下がるようにつき、長さは4mmに達する。蓋は浅い円錐形で中心部分が軽く尖る。よく発達した口環をもつ。朔歯は二重で、内外ともに16枚の朔歯からなる。外朔歯は披針形で先端部には微細な乳頭がある。内朔歯は、高い基礎膜を持ち、明瞭な間毛がある。

 朔に帽をつけたものはすでになかった。また、胞子は多くが潰れたり壊れていた。朔の基部表面に気孔を探したが見あたらなかった。
 チョウチンゴケ科 Mniaceae チョウチンゴケ属 Mnium の蘚類に間違いなかろう。保育社図鑑の検索表をたどるとオオヤマチョウチンゴケ M. hornum に落ちる。簡単な解説と図は観察結果とほぼ符合する。Noguchi(Part3 1989)でM. hornum の記載を読むと、おおむね符合する。
 平凡社図鑑の検索表からは、トウヨウチョウチンゴケ M. orientale に落ちる。[ノート] によれば、「欧州に産する M. hornum Reichardt ex Hedw. が日本に生育するとされてきたが,近年日本産は形態が異なることがわかり,M. orientale とされた」とある。