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[標本番号:No.1027 採集日:2010/10/12 採集地:愛媛県、久万高原町] [和名:キテングサゴケ 学名:Riccardia flavovirens] | |||||||||||||
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四国の面河渓で水流に浸った岩盤に着いていた苔類を観察した(alt 750m)。長さ1〜3cm、幅0.5〜2mm、規則的に高頻度で側面から分枝し羽状となる。粘液毛が葉状体の縁やら腹にある。葉状体の表面はほぼ平滑。葉状体の表皮細胞は薄壁で、表面からみても、横断面をみてもトリゴンはない。茎は6〜7細胞の厚さ。葉状体の翼部は広く、単細胞層は1〜5細胞幅だが、多くは2〜4細胞幅。表皮細胞の大きさは、葉状体中央部でやや大きく、翼部や縁ではやや小さいが、極端な違いはない。表皮を構成する葉身細胞は葉状体内部の細胞より小さい。表皮細胞には油体が一つ含まれる。油体は微粒の集合で、大きさは6〜12μmに及ぶ。仮根は茎の腹の部分にわずかにあるが目立たない。 スジゴケ属 Riccardia の苔類のようだ。保育社図鑑の検索表をたどるとナミガタスジゴケ R. chamedryfolia に落ちる。しかし種の解説を読むと、油体の数や大きさがまるで違う。そこで、平凡社図鑑の検索表にあたってみた。保育社図鑑掲載種と比較して圧倒的に多くの数が掲載されている。検索表からはキテングサゴケ R. flavovirens に落ちる。種の解説を読むと、観察結果とほぼ符号する。
[修正と補足:2011.1.3]
そこであらためて再検討してみた。順番は逆だが、表皮細胞のほとんどすべてに油体があるか否か。残念ながらこれを正面から検証することはできない。手元の乾燥標本にはもはや油体はない(o〜s)。先の観察時すでに採取から80日ほど経過している。標本はチャック付きポリ袋に入れた状態で室内に放置してあったが、観察時植物体はまだ生きていると思われた。この時点で油体をもっていると思われた細胞は表皮細胞か否か、を検討することから始めた。 |
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次に葉状体の各部で、あらためて横断面を切り出してみた。単細胞層の幅は1〜3細胞ほどのものが多く、一部に4〜5細胞と広い部分もあった。他に比較できるスジゴケ属があればよいのだが、手元にはない。したがって、画像(d, e, p)や横断面の様子などから翼部が明瞭といえるのかどうかはよくわからない。
本属については、T.Furuki "A taxonomical revision fo the Aneuraceae(Hepaticae) of Japan", J.Hattori Bot. Lab. 70:333 ,1991 にあたる必要があるのだろうが、残念ながら手元にない。いずれ参照したいと思う。井上『続・日本産苔類図鑑』1976 にはナミガタスジゴケ R. chamedryfolia について、興味深い次述があった(p.130)。 平凡社図鑑の検索表には上記 T.Furuki 論文の結果が反映されているものと考えられる。その検索表にしたがえば、本標本はクシノハスジゴケにではなくキテングサゴケとなる。主たる根拠は「油体は各表皮細胞にある」こと。また、種の解説で、クシノハスジゴケでは「油体は表皮細胞にふつうなく,内部細胞と翼部細胞に1〜3個あり」となっている。一方、キテングサゴケでは「大きな油体が各細胞に1個含まれる」とある。これらにもとづいて、本標本はキテングサゴケとしてよいと思う。コメントありがとうございました。 12月30日の観察時に感じたことだが、この苔類の油体は少し圧力を加えたり刺激を与えると簡単に微細な粒となって消えてしまう。したがって、葉状体の横断面を切り出すとき、厚い切片を作ると油体は残るが、全体が暗く細胞の境界面も不鮮明となる。一方、薄い切片を作ると、油体はわずかにバラバラになった微細な気泡となって残るか、全く消えてしまう。その結果、横断面の画像(j, k, l)には油体は写っていない。 |
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