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[標本番号:No.1200   採集日:2017/04/27   採集地:栃木県、日光市]
[和名:クサゴケ   学名:Callicladium haldanianum]
 
2017年9月8日(金)
 
(a)
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(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(a) 発生環境、(b) 植物体、(c) 標本、(d) 標本:乾燥時、(e) 標本:湿時、(f) 茎葉、(g) 茎葉、(h) 葉の翼部、(i) 葉の基部中央、(j) 葉身細胞、(k) 葉の先端、(l) 茎の断面

 今年4月27日に奥日光千手ケ原で採取したコケも残り少なくなってきた。今朝は、そのうちの一点、倒木に一面にビッシリと厚い層をなして着いていたコケを観察した。持ち帰った標本は既にすっかり緑色系が抜けていずれもみな茶褐色に変色していた。
 茎は這い、不規則に枝を出す。乾燥時は葉が茎に軽く接するが、湿時にもあまり開くことはない。枝は葉を含めて幅1mm前後。茎や葉の偽毛葉は披針形のものが多い。茎葉は長さ2〜2.3mm、卵型で先端は急に尖って長く伸びる。葉面はやや凹み縁は全縁。枝葉は茎葉と大きさが違うだけで形はほぼ同じ。枝葉の大きさは長さ1.4〜2mm。いずれの葉も中肋は二叉して短く目立ちにくい。茎の断面で表皮細胞は厚膜で小さく、弱い中心束がみられる。
 葉身細胞は線形で、長さ80〜110μm、幅3〜5μm、やや厚壁で平滑。葉の基部中央の細胞の膜にはくびれがある。翼部の細胞は褐色を帯び大型で薄膜、方形で長さ30〜40μm、多列で明瞭な区画を作る。
 
 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
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(x)
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(m) 偽毛葉、(n, o) 偽毛葉、(p) 胞子体、(q) 朔、(r) 朔歯[左:乾燥時、右:湿時]、(s) 外朔歯、(t) 外朔歯の基部 、(u) 外朔歯の先端、(v) 内朔歯、(w) 内朔歯の基部、(x) 内朔歯の先端

 朔柄は赤褐色で長さ2〜2.8cm、朔は傾き、円筒形で湾曲し、長さ2mm前後で、非相称。乾燥すると外朔歯が内側に巻き込むように開き、湿ると閉じる。外朔歯は披針形で、先端は芒状となり微イボに覆われる。内朔歯の基礎膜は高く、顕著な間毛が見られる。

 採取から既に4ヶ月が経過していたので、色抜けが激しく、朔の柄はいずれもすっかり皺だらけになって、水に戻してもなかなか元に戻らなかった。コケの塊を持ち帰るとたいていはほかの種が混生しているものだが、この標本は完全に純群落だった。採取時にはナガハシゴケ科 Sematophyllaceae かハイゴケ科 Hypnaceae の蘚類だろうと思っていた。朔柄が長く表面にイボもないので、ナガハシゴケ属 Sematophyllum ではなさそうだと気付いた。そうなるとハイゴケ科のクサゴケ属 Callicladium のクサゴケ C. haldanianum ということになる。図鑑類の記述を読むと、観察結果とよく符合する。それにしても、屋外で見てこれがクサゴケであるとは認識できなかった。クサゴケは既に何点も詳細に観察しているにも関わらず、現地では全くわからなかった。6年間の空白はやはりかなり大きい。