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[標本番号:No.1202   採集日:2017/04/27   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ミヤマリュウビゴケ   学名:Hylocomiastrum pyrenaicum]
 
2017年9月17日(日)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(a) 発生環境、(b, c) 植物体、(d) 標本、(e) 茎葉と茎、(f) 茎と毛葉、(g) 枝葉と枝、(h) 枝と毛葉、(i, j) 茎葉[上段]と枝葉[下段]、(k) 茎葉、(l) 茎葉の先端

 今年4月27日に奥日光千手ケ原周辺で採取したコケの最後の一点をようやく観察することができた。小田代ヶ原付近、ハイブリッドバス路線脇の石組みの上に厚いマットを作っていた。
 
 茎は赤褐色がよく目立ち、不規則に分枝し、葉を覆瓦状につけ、乾湿で状態にはあまり変化がない。枝は葉を含めて幅1〜2mm。茎や枝の表面は、1〜2細胞列の細く枝分かれし先端が尖った毛葉に、一面に覆われる。茎葉は広い卵形から三角形で、基部は狭くなり、長さ1.5〜2mm、深い縦皺があり、先端は急に狭まり縁には小さな歯がある。中肋は一本で弱く細く、葉長の1/2〜3/4に達する。枝葉は卵形で鋭頭、長さ1〜1.5mm、全周にわたって明瞭な歯があり、中肋が葉長の3/4に達し、その上端は葉の裏面でひとつの牙となって終わる。
 
 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(s)
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(t)
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(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 茎葉の基部、(n) 茎葉の葉身細胞、(o, p) 枝葉、(q) 枝葉裏側の中肋の端、(r) 枝葉の先端、(s) 枝葉の基部、(t) 枝葉の葉身細胞、(u) 茎葉の断面、(v) 茎の断面、(w) 茎断面の表皮、(x) 毛葉

 葉身細胞は茎葉でも枝葉でもほぼ同様で、葉の先端部では菱形で、長さ10〜25μm、幅4〜8μm、葉の中央部では軽く曲がりくねった長い楕円形から線形で、長さ35〜50μm、幅4〜6μm、平滑で、膜はやや厚い。葉の基部は褐色でやや幅広の厚膜の細胞からなる。茎や枝の断面では、表皮細胞は小さくやや厚膜となっている。

 大型の蘚類で、茎や枝には毛葉があり、中肋が一本で、不規則羽状に分枝し、葉面に深い縦皺があることなどから、ヒヨクゴケ属 Hylocomiastrum の蘚類と見当をつけた。茎は階段状にならないから、シノブヒバゴケ H. himalayanumではない。また中肋が一本なので、ヒヨクゴケ H. umbratumでもない。となると、残りはミヤマリュウビゴケ H. pyrenaicumということになる。複数の図鑑でミヤマリュウビゴケの解説を読むと、観察結果とほぼ符合する。なお、保育社図鑑では旧分類に従ってミヤマリュウビゴケはヒヨクゴケ科のイワダレゴケ属となっている。