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[標本番号:No.1209   採集日:2017/12/01   採集地:栃木県、日光市]
[和名:イワイトゴケ   学名:Haplohymenium triste]
 
2017年12月3日(日)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(a) 樹幹に着生、(b, c, d) 植物体、(e) 標本:湿時、(f) 標本:乾燥時、(g) 枝から落ちた葉、(h) 葉、(i) 枝から外した葉、(j) 葉、(k, l) 葉の上半、(m, n) 葉の下半、(o) 枝と葉の断面、(p) 葉の断面、(q) 枝の途中から出た仮根、(r) 仮根

 空地や空家の多い分譲団地を散策した折に、すっかり大きく育った樹木に何種類かのコケが着生していた(a)。そのうちから光沢のない緑色で厚いマットを作っていた蘚類を持ち帰ってきた(c)。現地でルーペで見てイワイトゴケ属 Haplohymenium の仲間らしいと感じた。

 茎ははい、不規則に分枝し、枝の随所から仮根が出ている(e, f)。群れの下部では細糸が絡み合ったような様相を呈している。毛葉などはなく、葉には光沢がない。乾燥すると葉は枝に密着し(f)、湿ると反り返るように展開する(e)。枝は葉を含めて湿時幅0.4〜0.8mm、乾燥時0.1〜0.2mm。枝葉は卵形の基部からやや急に舌形に伸びて、長さ0.5〜0.8mm、先端は円頭で、舌状の部分は非常に折れやすい。中肋は弱く、葉長の1/2程度で終わる。
 葉身細胞は、葉の上部では類円形〜六角形で、中央から下部ではやや扁平な六角形となり、幅10〜15μm、長さ12〜16μm、膜はやや厚く、表面には数個から6個ほどの乳頭があり、やや暗い。葉の断面で中肋の細胞はあまり分化していない(o, p)。枝の断面で表皮近くの細胞は厚壁で小さく、中央部の細胞は大きく、中心束のようなものはない(o)。

 現地で見たときにはコバノイトゴケかもしれないと思ったが、葉先が鈍頭で舌形の部分が簡単に崩れてしまうこと、葉身細胞がやや大きいこと、葉縁に微歯などがないこと、などからイワイトゴケとするのが妥当と思われた。なお、朔をつけたものはなかった。