(a) 発生環境、(b) 朔を豊富につけている、(c, d) 標本:乾燥時、(e, f) 標本:湿時、(g) 茎葉、(h) 枝葉、(i) 葉身細胞、(j) 翼部の細胞、(k) 胞子体、(l) 蓋と朔と朔柄上部、(m) 朔歯、(n) 朔歯 [左:乾燥時、右:湿時]、(o) 外朔歯、(p) 内朔歯、(q) 朔基部の気孔、(r) 胞子 |
3月に宇都宮市の多気不動尊で採取した蘚類を観察した。3月頃からずっと放置したままになっているコケが6〜7種類ほどあるが、そろそろ何とかしなくてはと思い始めて、手始めにこの蘚類から開始した。たまたま手にしたのはアオギヌゴケ属のコケだった。
寺院境内の石垣の上でビッシリと朔をつけていた。乾いても湿っていても葉の開き具合はあまり変わらない(c〜f)。平凡社図鑑の検索表は少々やっかいなので、まずは保育社図鑑の検索表に従って、形質状態をたどってみた。今回は観察結果の細かな記載は省略した。
朔柄は実体鏡で最大限倍率を上げると上部にわずかにパピラがあるが、ほとんど平滑といってよさそうだ。次いで葉が漸尖するか否かとなる。ここでいう葉とは茎葉のことなのか枝葉のことなのかはっきりしないが、いずれにせよ両者ともに急に長い先鋭部に移行するとは言い難い。そこでヒモヒツジゴケは除外される。
次いで葉縁の様子だが、茎葉も枝葉もほとんど全辺なので、ナガヒツジゴケ Brachythecium buchananii に落ちる。なんともあっけない結末なので、はたしてこれでよいのだろうかとp.218の種の説明を読むと、観察結果とほぼ符合する。
よく似た種にハネヒツジゴケ B. plumosum があり、この種は変異の幅が大きく同定は厄介だとされる。この種についての説明を読むと、これまた観察結果とかなり符合する。しかし、ナガヒツジゴケと比較すると、乾湿での葉の開出具合や中肋の長さが異なるように読み取れる。
つまりじっくり読むと、ハネヒツジゴケは湿ると葉が開き、ナガヒツジゴケは湿ってもあまり開かない。またハネヒツジゴケの中肋は葉長の2/3〜4/5に及ぶが、ナガヒツジゴケでは1/2〜2/3で終わるとされる。これらを鑑みると、本種はナガヒツジゴケとしてよさそうだ。
本当にこれでよいのだろうか。そこで平凡社図鑑でアオギヌゴケ属の検索表にあたってみた。こちらの検索は朔柄表面の状態ではなく、枝葉の中肋の長さから始まっている。
中肋は葉先にまで達してはいないので、後半の[A]は該当しない。次いで[B]として植物体の大小があるが小型ではないので、前半は該当しない。そこで[C]にあたってみる。茎葉は広く展開しないからアラハヒツジゴケは除外され、[D]に進む。茎葉の先が毛状か否かとあるが、どちらかといえば毛状ゆえ後半は除外される。ついで[E]で茎葉の縦皺の状態だが、どちらかといえば深い縦皺をもったものが多い。そこで、[F]にはいる。本標本の茎葉はほぼ全縁なので、[G]に入る。そこの記述からは、確かにナガヒツジゴケに落ちる。
なお朔に口環はなく、基部には比較的多くの気孔が見られる。内朔歯の基礎膜は比較的高く、間毛は長く伸びる。なお今回は葉の断面や茎の断面の画像は掲載しなかった。
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