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2008年5月3日()
 
スライドグラスとカバーグラス
 
 つい数年前までは、一度使ったカバーグラスはそのまま捨てていた。きのこの顕微鏡観察では、基本的に油浸レンズである対物100倍を使う。したがって、一度使ったカバーグラスはイマージョンオイルで汚れる。だから、使用済みカバーグラスはその都度廃棄される。胞子や脂分で汚れたスライドグラスも、ちょっとやそっと拭き取った程度では別のキノコ観察には使えない。コンタミが怖いので、使用済みのスライドグラスは一度ていねいに洗浄する必要がある。
 振り返ってコケの顕微鏡観察では、油浸レンズが必要とされる曲面はほとんどない。概ね対物レンズは40倍まであればよい。また、多少汚れていても観察にはほとんど支障ない。きのこのようにコンタミを気遣う必要は全くない。したがって、スライドグラスはいちいち洗浄することなく、ティッシュペーパーで拭き取れば別のコケ観察にそのまま使える。
 このことは、ピンセット、柄付き針、カミソリなどすべてにいえる。ひとつのキノコを観察した後、次のキノコを観察するには、あらかじめ使用するすべての道具をアルコール消毒してかかる必要がある。しかし、コケ観察では、こういった配慮は全く不要だ。

 以前、蘚苔類関係の研究者や愛好家が、プレパラートやスライドグラスなどをひじょうにおおざっぱに扱うことを不思議に感じていた。しかし、コケ世界に首をつっこむようになって、この疑問はたちまち氷解した。試料というか対象があまりにも違い過ぎた。
 最近はこの両者を峻別することにすっかり慣れた。自宅でコケ観察用のスライドグラスとカバーグラスは、日常机上に曝したまま放置しっぱなしである。汚れが目立てばティッシュペーパーで拭き取る。同じカバーグラスを割れるまで何度も使う。
 これに対して、キノコ観察用のスライドグラスはケースに密閉し、使う都度一枚とりだす。使い終われば洗浄液の入った金属缶に容れる。この金属缶のスライドグラスは適宜まとめて洗う。カバーグラスは、一度使ったら処分する。一つのきのこでカバーグラスを7〜10枚ほど使うケースは多い。キノコシーズンともなると、一回採集から戻れば、200枚入りのケースがたちまち空になる。そのキノコシーズンがそろそろ始まる。
 特に今年は、ジャンジャン撮影し、採取し、検鏡し、検鏡写真を撮り、記載し、乾燥標本にせねばならない。スライドグラスやカバーグラスも多量に消費することになるだろう。