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青木氏は早朝かなり多数のプレパラートを作成し、観察結果は文章で記録した。スケッチをするにはあまりにも時間が足りない。そこで氏はスケッチのかわりにもっぱら顕微鏡写真を何枚も撮ることにした。こうすれば、勤務を終えてから、あるいは休日に顕微鏡写真と文章による記録に基づいてシスチジアなり胞子、組織各部のスケッチができる。 検鏡結果を写真フィルムに残すという方法を採用するようになるまで、カメラとは無縁であったという。一瞬のうちに記録にできるということがカメラを使おうと考えた唯一の目的であったという。そして、経費をかけないためにフィルムの現像は自分で行うようにした。 青木氏は切片作成にピスは全く使わず、もっぱらきのこを手で支え、カミソリで何枚もの切片を切り出した。その中から薄いものを選んでプレパラートにしたという。ピスは一度も使ったことはなく、実体鏡も使用したことはないという。 あとでフィルムと文字による記録に基づいてシスチジアなり傘表皮の構造を描く、と聞くと一見簡単そうに思えるがこれがとんでもない。いい加減な切片を撮影したフィルムからは、正確なミクロの図を描くことはできない。たとえば側シスチジアなのか縁シスチジアなのか区別することすら難しい。まして、ヒトヨタケのひだ実質を撮影しようと思ったら、かなり高度な切り出し技術が必要となる。これは日々の修練の賜物であろう。 |
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