先日の菌懇会例会の席上で、キクラゲ類のプレパラートのことが話題になった。今の時期でもキクラゲの仲間は広く見られる。きくらげ類の胞子観察やプレパラート作成では、かさと柄をもったハラタケ目のきのこととは違った配慮が必要とされる。
生の状態では、うまく胞子が見られなかったり、切片作りもかなり難しい。かつて切り出しに苦労していた時期に目から鱗だったのが、青木孝之氏による小論「キクラゲ類の研究方法」(神奈川キノコの会会報 くさびら 第10号, 1988年5月)だった。
キクラゲ類について、初歩的なところからかなり高度な内容までがコンパクトにまとめられている。これは一読の価値がある。その中の一節に以下の文がある。
筆者がキクラゲ類の標本を作製するとき、習慣のように行っていることが一つある。それは表本箱に一旦収めた子実体の一部をとり出し、人工的に再び吸湿・乾燥を行わせることである。すなわち、再び水に浸し、十分に吸湿・膨潤した後に水からとり出し、次に風のない室内に静置してゆっくりと乾燥させる。この処理は、採集子実体の多くに再び胞子形成を誘導し、担子器を成熟させ、新たに多量の担子胞子を形成させるようである(Lowy, 1971)。
(中略)
単に子実体表面をかき取って検鏡するのではなく、子実層の位置関係などを知るためにカミソリなどで薄い切片を作って観察するとよい。切片は柔らかい材料のほうが作りやすいと考えがちであるが、かちかちに乾燥した標本から直接、カツオブシを削るようにして作ったほうがよい結果が得られるようである。たくさん作って、水をはった浅い器に落とし、よくできたものを選んで拾い上げる。
その切片を染色するには、フロキシンという色素の水溶液と、3%苛性カリ(水酸化カルシウム)を一滴ずつスライドガラス上で混合し、その中に切片を投入する。(以下略)
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例年だと今頃いつもキクラゲ類の観察をしている(雑記2005.1.23、同2004.4.7等々)。しかしたいてい、時間がなく十分な自然乾燥をして乾燥したものからの切り出しをしていない。青木氏の勧める方法に依れば楽にきれいな切片が作れる。
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