2006年10月22日()
 
コケカッター (2)
 
 すぐにでも、きのこで試用してみたいところだが、きのこの切片作りは植物とはかなり相違がある。そこで、まずは使用説明書に忠実にしたがって、コケを切ってみることにした。まずは、コケカッターを使わず実体鏡の下でスギゴケ科の蘚類(セイタカスギゴケ Pogonatum japonicum)の葉を切り出してみた。このコケは、蘚類の中ではとても大きくて、しっかりした大型の細長い葉を持っている。まずはやさしくて楽な素材で、薄片切り出しをやってみた。
 
 
 
コケカッター
使わず
(a)
(a)
コケカッター
使用
(b)
(b)
(c)
(c)
 大きくてしっかりしている葉とはいえ、慣れないと実体鏡下での切り出しは意外と難しい。実体鏡の倍率を20倍に設定して、5〜6枚切り出し最も薄いものを選んだ。10〜12μmほどの厚さと思われる(a)。指先で葉を押さえて、半分に割ったカミソリ(炭素綱・刃厚0.1mm)を使った。条件を同じくするために、両刃カミソリはコケカッターに装着されているものと同一製品を使った。
 次にコケカッターを使っての切り出しを試みた。まずは説明にしたがって、刃の下に同梱されたスライドグラスを置いた。ここにわずかの水をたらして、その上に同梱のポリ袋片を置くとスライドグラスに張りついた。刃先が直接スライドグラスにぶつからずにポリエチレンがクッションの働きをするので、試料の切り残しが減るとの配慮らしい。

 まずは、試料を切る位置の確認をした。試料の切れる場所は、カミソリの刃端近くの*マークのついたところである。指先でカミソリ端の中程を掴み、まっすぐ静かにに下におろした。確かに、*マークのあたりに軽くカミソリ傷がついた。これで準備完了である。

 コケカッターを実体鏡に対して、やや斜めの位置に置いた。*位置付近に試料の葉を載せ指先で押さえた。反対の指先で刃先を摘んで、マットに軽く食い込むまで一気に押し下げた。「大根を輪切りにするように」と説明にある。いわゆる「押し切り」ないし「菜っぱ切り」である。
 刃先をつまんで、まっすぐ真下に押し下げるのは意外と難しい。少しでも「力み」が入ると、刃先をつまむ手が左右にぶれて刃が曲がってしまう。そうなると、切片も不均一で厚いものにしかならない。余計な力みを捨てて、一気に押し下げるのがコツらしい。カミソリの穴に棒を差し込み、この棒を水平に保って降ろしたらうまくいった。

 さて、その結果である。10〜20枚ほど切り出してみた。なかなか納得できる切片をきるのは難しい。切り出したものから2枚を並べてみた(b, c)。最初に切りだしたもの(b)と、少し慣れてきてそれよりやや薄く切れたもの(c)である。25〜40μmほどの厚みだろう。
 実体鏡の下で、カミソリを使って切り出す作業はこれまで何度もやってきた。一方、コケカッターを使って切片を作ったのは、今回が初めてである。新しい道具を使うには、慣れと熟練が必要となる。初めての作業にしては、比較的薄い切片が切り出せたと思う。

 実体鏡を使って切片を切る作業に不慣れな者にとっては、素手とカミソリだけでは写真(b, c)の程度の厚みですら、かなり難しいと思われる。もちろん、写真(a)のような薄片を切り出すことはまず不可能だろう。そういったことを考慮すると、実体鏡初心者にとっては、コケカッターは大きな福音であるといえる。ただし、コケなど植物切片の切り出しに限っての話である。脆くて柔らかいきのこについては、まだ試行していなので何とも言えない。
 なお、コケカッターは基本的に右利き用にできている。今回の試用では、最初右手で切り、次に左手で切ってみた。やはり利き手で刃先をつかむのがやりやすい。左利きが使っても、使えないことはないが、刃先がぶれやすい。左利きにとっては、使い勝手がよいとは言い難い。


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