2006年11月24日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 このところ、あえて簡易ミクロトームを使って切片を作成してきた。もっぱら池田製簡易ミクロトームポリプロピレン製注射器ミクロトームの両者を使って、コケを切ってみた。ふだんはあまり使わない道具を使っての切片作成だ。コケを使ったのはキノコが無いからだ。
 それらのうちの一つを記しておこう。ここで使っているのはサナダゴケ科の小さな蘚類である。群生してマット状になるが(a)、ひとつ一つのコケは1.2〜2.4cmほどの高さで、薄い一層の細胞からなる小さな葉がついている(b)。この葉の横断面を切りだしてみた(c, e)。
 蘚類では葉の横断面の観察が重要だ。ふだんはピスに直接挟んで切っていた。今回は簡易ミクロトームの使い勝手を検証するため、この小さな葉(c)をピスに挟んでミクロトームに挿入した。ルーペを使っての作業である。葉をそのままスライドグラスに置くと細長い細胞が見える(d)。
 葉の横断面の切り出し幅の目標値を15〜20μmとした(f)。葉(c)の青色線に挟まれた幅である。簡易ミクロトームを使わずに切り出した場合、25回ほど試みてやっと横断面を観察することができた。池田製簡易ミクロトームでは5回ほどで可能だった。
 ポリプロピレン製注射器で作成した簡易ミクロトームを使って切り出したところ、15回ほどやって横断面切り出しに成功した。何も使わず直接ピスを手に持ってカミソリをあてた場合より確実だった。よほどピスを使い慣れていなければ、道具無しでは全く不可能だろう。
 切り出した切片の幅が15μmを越えると、組織が倒れてしまって横断面を観察することはできなかった(f)。しかし、慣れないとこれらの道具を使っても、40〜50μmの幅を切り出すことも至難の業となる。小型のコケの場合、横断面の観察は難しいが、キノコのヒダ切片や傘表皮であれば、60μmの厚さに切り出せれば十分である。簡易ミクロトームの効果は絶大だ。
 
 
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 実際に過去に雑記で取りあげたヒダ切片の低倍率写真をいくつか並べてみた。(g)はオウギタケでこれは120μmほど、(h)はオキナクサハツで80μmほど、(i)のチチタケも80μmほど、(j)はワタヒトヨタケで60μmほど、(k)はウラベニガサで60μmほど、(l)はウラベニガサ近縁種で50μmほどである。いずれも、簡易ミクロトームなどは使わず、1〜2回の切り出しで得た切片だ。
 キノコの場合は、コケのように薄い切片を作る必要はない。切片作りにかなり慣れた人でも30μm以下の厚みに切るのはとても難しい。不慣れな人にとっては、120μmですら難儀するかもしれない。しかし、(g)〜(l)に掲げたように、きのこのヒダでは50〜80μほどの厚みに切れれば目的を果たせる。そうなると、やはり簡易ミクロトームの効果は大きい。
 ちなみに、(g)のオウギタケはヒダを直接指先で摘んで、それにカミソリをあてたもの、(h)のオキナクサハツと(j)のワタヒトヨタケは実体鏡の下で切りだしたもの。(i)、(k)、(l)だけがピスに挟んで切り出したもので、いずれも早朝の慌ただしい時間の作業だった。
 コケに比べると厚くてもよいとはいえ、きのこ固有の難しさがある。それは、ピスで挟むときやカミソリをあてるときに、ヒダを潰さないようにすることだ。これにはまた別の難しさがある。

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