2008年6月4日(水)
 
ちょっぴり苦い想い
 
 先日狭山丘陵で採取したヒイロベニヒダタケ(a, b)の顕微鏡下の姿だ。カサ表皮は、楕円形〜洋梨形の細胞が子実層状に並ぶ(c)。また、ひだ実質は逆散開型をしている(e, f, h)。薄膜のシスチジアが多数みられる(e, f, j, k)。担子器は短くてずんぐりしている(l)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 ヒイロベニヒダタケは罪作りなキノコである。ウッドチップベースの地表から出た色鮮やかな子実体をみると、まるでアカヤマタケ属 Hygrocybe のキノコを思わせる(b)。図鑑のヌメリガサ科をみると、ベニヤマタケとかヒイロガサといった、よく似たキノコがいくつも並ぶ。
 しかし、これらの種についての解説を読むと、いずれもしっくりこない。それもそのはずで、ヒイロベニヒダタケは、ウラベニガサ属 Pluteus の仲間であって、アカヤマタケ属などとはかなり遠い位置にある。この属の胞子紋は褐色であり、アカヤマタケ属の胞子紋は白色だ。

 7〜8年ほどまえ、色鮮やかな赤色のカサを持ち、ヒダが白い幼菌を採集した。てっきりヌメリガサ科のキノコだと思って、図鑑をさんざん探したが該当種が見つからなかった。「きのこ屋」さん(高橋 博氏)に話すと、「ウッドチップから出てたんじゃないの? それって、ヒイロベニヒダタケだよ。ヒダの色が違うよ」と一言で片づけられてしまった。「きのこ屋」さんには、昔からいろいろ教えられたが、当時の自分には、胞子紋を観るという視点が欠如していた。

 保育社や山渓のキノコ図鑑では、ハラタケ類の配置はSingerの分類に準拠している。おおざっぱには、胞子紋が明るい色から暗い色の順に並ぶ。胞子紋が白色のヌメリガサ科は図鑑のヒラタケ科に継いで2番目の位置に置かれる。一方、ヒイロベニヒダタケなどを含むウラベニガサ科は、テングタケ科の次、ハラタケ科の前に置かれている。
 胞子紋、ないしヒダの色をみれば、写真のキノコ(a, b)がヌメリガサ科でないことはすぐ分かる。さらに、腐朽木からでていることで、ウラベニガサ科を想起させられる。顕微鏡で覗くと、ひだ実質が逆散開型であることから、ヌメリガサ科でないことは決定的となる。アカヤマタケ属ならば、ひだ実質は並列型だし、ヌメリガサ属ならば散開型であり、いずれの担子器もとても長い。

 ということで・・・・、ヒイロベニヒダタケにはちょっぴり苦い想いがある。キノコが [単なる山菜] だった頃、絵合わせだけで種名をテキトウに決め、食毒を判定して頃の姿が思い出される。「きのこ屋」さんからの指摘がなければ、保育社図鑑に [肉眼的形態と観察要点]、[顕微鏡的形態]、[子実体の菌糸構造]、・・・などの解説があることも知らなかった。近年大きく分類体系が変わったとはいっても、保育社図鑑は基本中の基本を教えてくれる。


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