2008年6月19日(木)
 
忘れられたキノコ 2題
 
 先日コケ観察にでかけた折り、キノコを2種持ち帰った。今朝、採集したコケの観察中に、持ち帰ったキノコがあったことを思い出した。すっかり忘れていた。2種ともすっかり腐敗し、キノコをいれた袋はビショビショに濡れ、あまりの臭さに鼻を摘みながら作業をすることになった。現地で写真を撮ってしまったので、とりあえず捨てる前に、簡単な観察だけでもしておこう。

 ひとつは、苔むしてボロボロになった倒木から出ていたナミハタケ属のキノコだ(a, b)。胞子紋は白色、胞子は小さな球形でアミロイド、表面は微細な粒点覆われているようにも見える(c)。
 

(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 ヒダを切り出して、メルツァー液で封入してみた。ひだ実質は並列型だが、実質部は非アミロイドだった(d)。ヒダ面にメルツァー液を垂らしても変色しない。カサ表皮やカサ肉、短い柄、ヒダ実質など、各部分から何ヵ所かを切り出して、フロキシンで染めてからKOHで封入して組織をバラしてみた。どの部分も原菌糸のみ。つまりmonomiticだ。ということは、少なくともイタチナミハタケではないことになる。では、何だろうか? 既にキノコはボロボロで白いウジ虫がウヨウヨしている。これ以上の探究は止めることにした。

 いまひとつは、マット状に一面コケに覆われた場所で、ヒナノヒガサなどと一緒に出ていたきのこだ(0)。現地では、フユノコガサあるいはヒメコガサかもしれない、そう思った(1, 2)。
 

(0)
(0)
(1)
(1)
(2)
(2)
(3)
(3)
(4)
(4)
(5)
(5)
(6)
(6)
(7)
(7)
(8)
(8)
(9)
(9)
 胞子紋は茶褐色。胞子を、ドライでみたり、水道水で封入してみると、どうやら微イボに覆われている(3, 4)。コケの葉を切り出す要領で、実体鏡の下でカサとヒダを一緒にして切りだした(5)。別途、小さなヒダを注意深く取り外して、ピスに挟んで切ってみた(6)。
 ひだ実質は並列型で、縁シスチジアや側シスチジアは便腹型〜フラスコ形で、縁シスチジアはひどく少ない(7, 8)。カサ表皮はゴチャゴチャしてはっきりしない。柄の表面を顕微鏡でみると、柄シスチジアがある(9)。観察結果が示しているのは、フユノコガサでもなければ、ヒメコガサでもないことだ。ケコガサタケ属だろうが、これも異臭とウジ虫に探求心を阻害された。

 長さ1.5〜2mmほどのコケの葉の横断面を切り出しながら、ついでにキノコをみたのだが、2種類とも外見上からの推定とは違う種類だった。日常的にも、ちょっと見には図鑑などの写真と似ていても、胞子やらシスチジアを見ると、全く違うことがしばしばある。
 それにしても、コケの観察は採取したあと、何日もかけてのんびりと観察すればよいが、キノコではそうはいかない。うっかり忘れていると、ドロドロに崩れて、多数の虫がはい回ることになる。今朝の2種はともに、この状態だった。異臭も凄まじかった。やっと捨てられる。


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