2008年10月18日()
 
Russulaは大変:ドクベニタケ
 
 フィールドに出たとき、ベニタケ属 Russula に出会っても、たいていは見なかったことにして通り過ぎることにしている。理由は簡単、好きでないからだ。なぜ好きでないかはいろいろあるが、種名にまでたどり着くのに、多くの作業が必要でやっかいだから、ということもある。
 ふだん希硫酸とKOHはたいてい持ち歩いているが、この日は運悪く FeSO4、グアヤク、フェノールを持って出てしまった。ベニタケ類にとって三種の神器ともいえる代表的な呈色反応用試薬だ。やむなくドクベニタケらしき個体に限って採取することにした。
 これまで何度も、ドクベニタケ Russula emetica var. emetica だろうと思って持ち帰った個体は、広義のドクベニタケではあっても、いずれも変種だった。「キノコのフォトアルバム」掲載のドクベニタケはいずれも広義のドクベニタケだ。この後何度もドクベニタケを撮影しているが、いずれも狭義のドクベニタケではなかったので、2001年7月を最後に追加していない。
 一昨日は、噛んでみて辛いことを確認して、目星をつけた個体を3つほど持ち帰った(a〜c)。雨で濡れていたため、粘性のあるカサ表皮は紙袋にべったり付いて、無理矢理はずすと、表皮だけがめくれてしまった(d)。外見的特徴はまさにドクベニタケだ。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 現地で白紙を広げ、傘片を3つ置いて、試薬を滴下した。グアヤクを滴下した部分は直ちに緑褐色に変わった。しかし、FeSO4やフェノールを滴下した部分にはほとんど変化がない。そのまま放置して、約15分後に戻ってみると、変化があった。FeSO4では淡いピンク色に、フェノールではワインレッドに変色していた。残りの作業は帰宅後に検鏡することだけになった。
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 胞子紋は多量に落ちた。メルツァー試薬だけでなく、水道水、フロキシンなどでも封入して胞子をみた。画像はメルツァー試薬で封入した胞子の表面と輪郭部だ(g)。ヒダの横断面は透明でコントラストが弱い。そこでフロキシンを加えて輪郭部を明瞭にした(h)。
 縁にも側にもシスチジアがある(i, j)。傘表皮の菌糸を確認して(k)、最期に担子器を念のためチェックした(l)。他にも偽シスチジア(の有無)、傘シスチジア(の有無)、柄の表皮などをチェックしたが、画像ばかりが増えるのでここには掲げない。

 広義のドクベニタケには違いないが、R. emetica var. emetica(真性ドクベニタケ)ではない。真性ドクベニタケであれば、グアヤクによる呈色反応が黄褐色となるはずだ。呈色反応のチェックは、傘肉と柄の断面でもやったが、煩雑になるのと、変色性に違いがないので掲げなかった。


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