2012年8月22日(水) |
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昨日の雑記で記したテングノメシガイを覗いてみた。胞子には隔壁が7つある(e)。多くの子嚢は弱いアミロイドだが(h)、非アミロイドの子嚢もかなりみられる(i)。側糸が特異な姿をしている。先端部が類球形をしていて、それに続く数細胞も丸味を帯びている(j, k)。先端の類球形の部分は簡単に分離して、子実層面に漂っている。柄の表面にも側糸とよく似た組織がある(l)。
頭部に剛毛がないからTrichoglossum(テングノメシガイ属)ではない(c, d, f)。胞子に7隔壁がある点はナナフシテングノハナヤスリ(Geoglossum glutinosum)に似ているが、側糸の形状がまるで違う。川村清一『原色日本菌類図鑑 第七巻』に記されたタマテングノメシガイのようだ。川村は学名としてG. glabrumをあて、「glabrumは無毛の義」と解説している。ややこしいシノニムの件は棚上げにして、G. sphagnophilumとするのが妥当のようだ。種形容語としての「sphagno」はミズゴケ属(Sphagnum)の学名、「philum」は「〜を好む」というラテン語だ。
海外のサイトに掲載された写真をみると、信頼性の高いサイトでは必ずミズゴケの中から発生している画像を掲載している。数年間さんざんミズゴケを追いかけてきたが、このきのこに、これまでなぜ出会わなかったのか不思議に思う。
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(a) |
(b) |
(c) |
(d) |
(e) |
(f) |
(g) |
(h) |
(i) |
(j) |
(k) |
(l) |
(m) |
(n) |
(o) |
(p) |
(q) |
(r) |
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(a) 子実体、(b) 採取標本、(c) 頭部、(d) 頭部拡大、(e) 胞子、(f) 頭部横断面、(g) 子実層、(h, i) 子嚢:メルツァー、(j, k) 側糸、(l) 柄の表皮
(m, n) ホストのミズゴケ[以下同]、(o) 枝の表面、(p) 枝葉の背面、(q, r) 枝葉の横断面 |
ところでホストのミズゴケは肉眼的には明らかにミズゴケ節(Sect. Sphagnum)だが、枝の表皮細胞に螺旋状の肥厚があることからもそれは裏付けられる(o)。枝葉の背面から細胞壁をみると、疣状の突起が多数見える(p)。枝葉の断面を見ると、透明細胞に挟まれた葉緑細胞の壁に多数の疣が見える。これはイボミズゴケ(S. papillosum)だろう(標本694、同528)。
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