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2017年6月29日(木) 和名が芳しくないきのこ:タテガタツノマタタケ
 鬼怒川遊歩道の複数個所でアカキクラゲ科らしい黄橙色の小さなきのこが落ち枝に多数ついていた。遠目にはツノマタタケかツノフノリタケのように見えた。近寄ってみると、どうも様子が違う。先端は二股に分かれたりへら状ではなく、盃か茶碗のようになっている(a, b)。見ようによってはまるで柄をもったチャワンタケのようにも見える(c)。
 持ち帰った標本をさらに接近した状態でみると(d, f)、茶碗の外側には縦の筋がみえる(e)。きのこを二つに縦断してみたが、茶碗の外側も内側も同じような色合いをしている(g)。きのこの茶碗部を縦断薄切りにしてみた(h)。音叉状の担子器が並んでいるが、透明で目が疲れる。
 若い胞子(i, j)とすっかり成熟した胞子(k, l)とでは形にも大きさにも変化が大きい。さらに若いうちははっきりしないが、成熟すると胞子には一つから三つの隔壁があることがわかる。対物40倍(i, k)と油浸対物100倍で撮影してみた(j, l)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 
 胞子の姿が面白いのでこれをフロキシンで(m, n)、ついでコットンブルーで染めてみた(o, p)。それぞれ対物40倍(m, o)と油浸100倍だ(n, p)。コットンブルーは細胞の内容物だけを染めるので隔壁はさらに明瞭になる。
 子実層を水封で見るとコントラストが弱くて目がつかれるので、フロキシンで染めてみた(q, r)。こうすると音叉状の形をした担子器の姿は明瞭になる(r)。茶碗の外側、つまり子嚢菌でいえば托外皮の部分は面白い構造をしている。これも対物40倍(s)と油浸対物100倍(t)で、さらにフロキシンで染めたり(u)、コットンブルーで染めてみた(v)。
 今一つ興味深いのはゼラチン質の菌糸にはクランプがなく、菌糸の最外皮が微細な毛に覆われていることだ。これもフロキシン(w)とコットンブルー(x)で染めてみた。
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 多くのキクラゲの仲間は菌糸にクランプを持っているが、アカキクラゲ科のきのこではクランプを持たないものがいくつも知られている。このタテガタツノマタタケもそういったクランプを持たないきのこだが、異質なのは菌糸の最外皮が微毛に覆われていることだろうか。また、子実層の裏面の細胞も微毛に覆われている。
 それにしても、このきのこの和名はなんともいただけない。学名 Guepiniopsis buccina の種小名であるbuccinaはラテン語でラッパの意味。確かにそんな形をしている。それなのになぜ「たてがた」などという和名をつけたのだろうか。むしろラッパキクラゲとかサラガタアカキクラゲ、あるいはサカズキアカキクラゲとでもつければより適切な和名となったろうに。
 もっとも、和名などというのは、古くからなんとなくそう呼ばれてきたものは別として、新産種ないし新種を報告する人の趣味でつけるものだから、いちいちケチをつけてもしょうがないが。