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2018年5月24日(木) 小さな柔らかいきのこは大変だ
 昨日日光の名勝憾満ケ淵で、遊歩道脇の落葉だまりを掘り返すと白い小さな子嚢菌をつけた細い枝が出てきた(a)。ルーペでみると、子嚢盤の縁から裏にかけて、さらに柄の表面もビッシリと毛に覆われている(b)。よせばいいのに、この枝を持ち帰ってしまった。
 紙袋に入れて持ち帰ったが、帰宅して袋を開けるとすっかり乾いて子嚢盤が丸まってしまいさらに小さくなっていた。そこで、シャーレに水を少し入れてその中に30分ほど放置した。すると、子嚢盤の部分が再び開いて野外で見たときよりも大きくなっていた(c)。
 きのこを枝から取り外して黒い紙の上に置いた。黒白の対比がとてもきれいだ(d)。実体鏡の下で倍率を上げて見たが、レンズとカメラがあまり良質ではないので、まともな画像は得られなかった(e)。スライドグラスにメルツァー液を一滴たらして、そこにこのきのこを、子嚢盤の側を下にして置いた。でも、カバーグラスを乗せるといとも簡単にペチャンコになった(f)。

 胞子紋はごくごくわずかしか落ちなかったので胞子単独の画像は撮影しなかった。問題は子嚢盤の断面の観察だ。ところが子嚢盤の縦切りに難儀した。乾燥状態で切ればよいものを、そのままの柔らかな状態のものに剃刀をあてるものだから簡単に潰れてしまう。枝に着いた状態のまま切ろうとすると、柔らかな柄が邪魔をしてなかなかうまく切れない。
 そこで、あきらめて湿らせたスライドグラス上にきのこを伏せて置いた。これを特に支えることもせず、えいやっとばかり剃刀を落とした。剃刀をあてたとたんにスルっと逃げる。それを追いかけてはまた剃刀を落とす。これを4〜5回ほど繰り返すと数枚の薄片が生まれた(g)。

 子実層には子嚢と槍のように尖った側糸が見える。子実下層から髄層に連なる部分は絡み合い菌組織で、髄層は円形菌組織。その外側に細い筒状の毛が多数着いている(g, h)。KOHで前処理をしてメルツァー液で封入すると子嚢先端の孔が青く染まった(i)。しかし、よくみないと青い部分を見落としやすい。子嚢盤の縁や托外皮や柄の表面を覆う毛は、先がやや膨らんだ円筒形で、表面は微細な顆粒に覆われている(j)。
 水道水にせよメルツァー試薬にせよ、これらで封入したプレパラートはコントラストが弱くて目が疲れる。そこで改めて別の切片をフロキシンで染めて水道水で封入した(k)。槍の穂先のような側糸は子嚢と比較するとかなり大きくて子実層表面から突出している(l)。
 

(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 柔らかな小さなきのこには手を出さないことが重要だ。これらに野外で出会っても、見なかったことにして通り過ぎるのが賢い選択なのだ。