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[標本番号:No.53   採集日:2006/12/25   採集地:東京都、八王子市]
[和名:オオトラノオゴケ   学名:Thamnobryum subseriatum]
 
2007年1月8日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 昨年12月25日に東京の高尾山の琵琶滝コースを歩くと、川沿いの道脇の石垣に、丈夫でしっかりしたコケがついていた(a)。多分オオトラノオゴケだろうと思い、近くでよく見ると朔を多数つけていた(b)。腋蘚類であるから、二次茎の途中から朔をだしている(c)。白い帽を被っていた。
 念のために、葉を確認した。葉はさじ状に窪み、丈夫な中肋が先端近くまで達している(d)。葉先付近の縁には大きな歯が並んでいる(e)。葉の横断面も切り出してみた(f)。ここまでで、やはりオオトラノオゴケ Thamnobryum subseriatum に間違いなかろうと思った。
 過去に見られなかった胞子体を少し詳しくみることにした。朔は白色の帽をかぶり、蓋には長い嘴がある(g)。成熟しているようだったが、容易に蓋を外すことができない。そこで、蓋の一部にカミソリをあてて、朔歯をさらけ出した(h)。内外2種の朔歯が明瞭にわかる(h)。
 朔を壊すとなかから胞子が噴出してきた(i)。朔柄は平滑でその基部の苞葉は透明だった(j)。オオトラノオゴケについては、過去に何度か観察しているので、今日はその折りに観察できなかったところを重点的にみた(標本No.27:覚書2006.11.5、標本No.12:同2006.9.27)。

[補足と修正 2009.02.18]
 先日標本No.587を再検討するにあたり、本標本を久しぶりに再び検鏡して調べてみた。結論としては、オオトラノオゴケとしてよさそうだ。下に補足的な画像を掲げた。
 

 
 
(sa)
(sa)
(sb)
(sb)
(sc)
(sc)
(sd)
(sd)
(se)
(se)
(sf)
(sf)
(sg)
(sg)
(sh)
(sh)
(si)
(si)
(sj)
(sj)
(sk)
(sk)
(sl)
(sl)
 
(sa) 取り出した乾燥標本、(sb) 乾燥標本を水で戻した状態、(sc) 茎の下部、(sd) 茎の中央部、(se) 茎下部〜中央部の葉、(sf) 茎下部の葉、(sg) 茎下部の葉の葉身細胞、(sh) 枝葉、(si) 枝葉背面の中肋上部に見られる歯牙、(sj) 枝葉上部の葉身細胞、(sk) 枝葉下部の葉身細胞、(sl) 枝葉基部の葉身細胞

 標本No.12への [修正と補足] にも書いたが、平凡社図鑑には「(二次茎は)下部から葉を密につけ」とある。これまで採集したオオトラノオゴケの標本では、二次茎に葉を密につけたものはなかった。しかし、本標本ではこの記述に多少近い茎を持ったものが多数見られる。それにしても、二次茎の基部では葉は疎であり、中部あたりから上でようやく密に葉をつけている(sa〜sd)。
 なお、オオトラノオゴケの配偶体と胞子体については、標本No.587により詳細に記してある。