HOME  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.92   採集日:2007/01/31   採集地:東京都、奥多摩町]
[和名:オオトラノオゴケ   学名:Thamnobryum subseriatum]
 
2007年2月11日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先月末に奥多摩で採取した最後のコケを観察した。転石が一面コケに覆われた沢で、大きな岩一面に拡がっていたものである(a)。近寄ってみると、どうやらオオトラノオゴケ Thamnobryum sandei のようだ(b, c)。このコケは既に何度か観察しているが、その都度気になっていてきちんと確認してこなかったことがある。「中肋背面に少数の歯をつける」という記述である。今日の観察では、もっぱら中肋背面の「歯」の確認に重点を置き、その他の写真は省略した。
 最初に形態観察をし、次に、茎葉や枝葉、茎断面などの検鏡をして、オオトラノオゴケであることを確認した(e〜g)。普通に中肋背面を見ても、なかなか「歯」があるように見えない(g)。何枚かの葉の中肋背面を、注意深くみていくと、確かに歯がある(h, i)。
 しかし、どうにも「歯」らしく見えないので、普段と趣向を変えて、水分を多めにしたプレパラートを作り、葉を数枚折り重ねて、中肋部を重点的に見ることにした(j)。中肋部に合焦して倍率を上げていくと、どうやら歯らしきものが見えてきた(k)。最後に、中肋を確認した葉の横断面を切り出してみた(l)。残念ながら、歯の部分を含んだ形での切り出しはできなかった。

[補足と修正 2009.02.18]
 先日標本No.587を再検討するにあたり、本標本を再び検鏡して調べてみた。結論としては、オオトラノオゴケとしてよさそうだ。下に補足的な画像を掲げた。
 

 
 
(sa)
(sa)
(sb)
(sb)
(sc)
(sc)
(sd)
(sd)
(se)
(se)
(sf)
(sf)
(sg)
(sg)
(sh)
(sh)
(si)
(si)
(sj)
(sj)
(sk)
(sk)
(sl)
(sl)
 
(sa) 取り出した乾燥標本、(sb) 乾燥標本を水で戻した状態、(sc) 茎の下部、(sd) 茎の中央部、(se) 茎下部〜上部の葉、(sf) 茎下部の葉、(sg) 茎下部の葉の葉身細胞、(sh) 枝葉、(si) 枝葉背面の中肋上部に見られる歯牙、(sj) 枝葉上部の葉身細胞、(sk) 枝葉下部の葉身細胞、(sl) 枝葉基部の葉身細胞

標本No.12への [修正と補足] にも書いたが、平凡社図鑑には「(二次茎は)下部から葉を密につけ」とあるが、本標本の中にはそういった状態の二次茎をもったものはなかった。標本No.587やNo.12を検討するときにも、この記述にはかなりの疑問を感じた。二次茎は下部から上部まで葉は疎であり、下部の葉は正三角形に近い形のものが多かった。また、この標本では、枝葉中肋背面上部の歯牙は、標本No.12などと比較すると弱く数も少ない。
 なお、オオトラノオゴケの配偶体と胞子体については、標本No.587により詳細に記してある。