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[標本番号:No.131   採集日:2007/03/04   採集地:群馬県、上野村]
[和名:ムチハネゴケ   学名:Plagiochila dendroides]
 
2007年3月12日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 群馬県上野村の鍾乳洞「生犬穴(おいぬあな)」は今や訪れる人もほとんど無い。地図には表示があるが、近づくと頭上高いところに、大きな石灰岩の割れ目がみえる。ところがそこに達する道はほとんど崩壊している。林道脇には古い看板がうち捨てられている。やっとのことで入口にたどり着くと、すっかりさびきった鉄の格子で封鎖してあった。
 石灰岩の割れ目にはタチヒラゴケが一面についていた。さらに、そのすぐ脇では、あちこちの樹幹を小さな苔類がおおっていた(a)。やや乾燥気味だったので霧吹きで湿らせて少し待つと、立ち上がった枝が鮮やかな色になった(b)。樹木にしがみつきながらやっとのことで撮影し、このコケだけ採取すると、再び苦労して崩壊斜面を下った。
 今朝はこの苔類を観察してみた。よく見ると茎のあちこちから鞭状の枝がでている(c)。葉がすっかり落ちてしまったようにも、最初から葉がついていなかったようにも見える。水没させると新鮮な色に戻った(d)。茎の長さは2〜4cm、樹幹から斜上し、密に分枝している。
 葉は離在ないし接在、あるいは瓦状にやや重なって、左右交互に茎に対して斜めについている(d, e)。葉の基部は流れるように茎を覆う。「茎に流下し」とはこういう状態をいうのだろうか。腹片や腹葉はみられない(f)。葉の先は2〜3歯があり、縁は全縁(g)。
 葉身細胞は15〜30μm、トリゴンはほとんどなく、油体は楕円形で各細胞に4〜7個みられる(h)。茎と葉を一緒に横断面で切ってみた(i)。茎の表皮細胞は内部より厚壁となっているが、特に顕著に分化しているわけではない。中心束のようなものはない(j)。
 久しぶりに未知の苔類を観察した。観察結果はハネゴケ属(ないしその近縁属)を示唆している。図鑑類の検索表をたどると、ムチハネゴケ Plagiochila dendroides が近いようだ。いくつか疑問は残るが、今はムチハネゴケとして扱っておくことにした。